けがら)” の例文
「訳を、訳をいえば貴下あなた、黙って死なして下さいますよ。もう、もう、もう、こんなけがらわしいものは、見るのもいやにおなりなさいますよ。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宮はそれ等をけがらはしとて一切用ること無く、後には夫の机にだに向はずなりけり。かく怠らずつづられし文は、又六日むゆかを経て貫一のもとに送られぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
盛遠のやうな人非人は、相手にする丈でもけがらはしい! お前は、俺の心をもつと知つてゐて呉れる筈ではなかつたのか。
袈裟の良人 (旧字旧仮名) / 菊池寛(著)
ただただ夢の如くにて自分にもかうかうとはつきり分りをらず候へどもつまんで申し候へば、まことにまことに卑しくけがらはしく筆に書き候も恥かしき次第
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あの人間が人間の体を裂きもてあそび喜ぶのは、重くろしくけがらはしくはずかしい気がする。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
お勢がこのような危い境に身をきながら、それには少しも心附かず、私欲と淫欲とがれきして出来でかした、軽く、浮いた、けがらわしい家内の調子に乗せられて、何心なく物を言っては高笑たかわらいをする
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おいしくも、芳しくもない、けがらわしい物であることが分って来る。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さあ、帰れ、帰れ、帰れ! けがらわしい。帰らんか。この座敷は己の座敷だ。己の座敷から追出すんだ。帰らんか、野郎、帰れと云うに、そこをたんと蹴殺けころすぞ!
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
沈着おちついた所もなく、放心なげやりに見渡せば、総てはなやかに、にぎやかで、心配もなく、気あつかいも無く、浮々うかうかとして面白そうに見えるものの、熟々つらつら視れば、それは皆衣物きもので、躶体はだかみにすれば、見るもけがらわしい私欲
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
洋犬かめめかけになるだろうと謂われるほど、その緋の袴でなぶられるのをけがらわしがっていた、処女むすめ気で、思切ったことをしたもので、それで胸がすっきりしたといつかわたくしに話しましたっけ。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けがらはしいよくのあればこそうなつたうへ蹰躇ちゆうちよをするわ、そのかほこゑけば、渠等かれら夫婦ふうふ同衾ひとつねするのにまくらならべて差支さしつかへぬ、それでもあせになつて修行しゆぎやうをして、坊主ばうずてるよりは余程よほどましぢやと
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)