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此胸
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このむね
幾度幾通の
御文を
拜見だにせぬ
我れいかばかり
憎しと
思召すらん、
拜さば
此胸寸斷になりて
常の
決心の
消えうせん
覺束なさ
せまいかと
此胸が
落付ぬ我年こそ寄れ此病氣でさへ
無成ば第一番に
御邸より御二人樣を
お
高涙の
顏恨めしげに、お
情なしまだ
其樣なこと
自由にならば
此胸の
中斷ち
割つて
御覽に
入れたし。
憂きに
月日の
長からん
事愁らや、
何事もさらさらと
捨てヽ、
憂からず
面白からず
暮したき
願ひなるに、
春風ふけば
花めかしき、
枯木ならぬ
心のくるしさよ、
哀れ
月は
無きか
此胸はるけたきにと
殿、
今もし
此處におはしまして、
例の
辱けなき
御詞の
數々、さては
恨みに
憎みのそひて
御聲あらく、さては
勿躰なき
御命いまを
限りとの
給ふとも、
我れは
此眼の
動かんものか、
此胸の
騷がんものか