機會はずみ)” の例文
新字:機会
と、地面に匐つた太い木の根に躓いて、其機會はずみにまだ新しい下駄の鼻緒が、フツリと斷れた。チョッと舌皷して蹲踞しやがんだが、幻想は迹もない。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
辭退じたいをしてそのせきかほ不面目丈ふめんもくだけやつまぬかれたやうなものゝ、そのばん主人しゆじんなにかの機會はずみについ自分じぶん二人ふたりらさないとはかぎらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
どうした機會はずみであつたかこれ壁際かべぎはけた竹箒たけばうきたふれてがかちつと草刈籠くさかりかごつた。おつぎはひよつとかへりみた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
どうと投出す機會はずみに切込九郎兵衞がやいばあつと一聲さけび女の體は二ツになり無慚むざんの最期に惣内はお里と心得心もそらおのれ女房のかたきめと追詰々々切むすび九郎兵衞諸共もろとも曲者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何かの機會はずみに、何かの僥倖で、せめて其銘文の拓本でも手に入れるやうなことがあり得たならば、我々の史的研究、ことに東大寺の研究に對して一大光明となるであらう。
拓本の話 (旧字旧仮名) / 会津八一(著)
足溜りなくける機會はずみに手の物を取落して、一枚はづれし溝板のひまよりざら/\とこぼれ入れば、下は行水きたなき溝泥なり、幾度も覗いては見たれど是れをば何として拾はれませう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
靜子はうした機會はずみからか、吉野と初めて逢つた時からの事を話し出して、そして、かの寫生帖の事まで仄めかした。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
さかんはしらちかおほうてつてた。かれまたすぐはげしい熱度ねつどかほぱいかんじた。はどうした機會はずみよこころがした大籠おほかご落葉おちばうつつてたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とらふかヱイと二人を左右へ一度に投付れば惡漢共わるものども天窓あたまを抱へ雲をかすみと逃失けり藤八は後見送りおつなせりふの機會はずみからヤア逃るは/\時に御旅人怪我けがは無かと九助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ひく機會はずみに兩手のゆび破羅々々ばら/\と落て流るゝ血雫ちしづくあぜの千草の韓紅からくれなゐ折から見ゆる人影に刄を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)