曲物まげもの)” の例文
もう尾瀬沼に近い随分不便な村ですが、ここで色々面白い品にめぐり会います。手彫てぼり刳鉢くりばち曲物まげものの手桶や、風雅な趣きさえ感じます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
牧場、牧舎の見廻りが一通り済んで、小舎こやへ帰って、二人水入らずの晩餐ばんさんの後、番兵さんは一個の曲物まげものを、茂太郎の前に出して言う
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
播州路の川でれた鮎のうるかもあった。対山はまた一つの抽斗から曲物まげものを取り出し、中味をちょっぴり小皿に分けて客に勧めた。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
この曲物まげものは塩見の甘酒あまざけ、竹の皮へ包んだのが踏切のけわい団子だんごといってうちこそ不潔きたないけれども大磯第一の名物だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
小さな桐の箱の蓋はられた。中から現はれたのは、見窄らしい一つの曲物まげものであつた。「何んぢやい、埓もない。」と言ひたげな顏が平七の上に讀まれた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
本業は人を使つて山深く入つて曲物まげもの(日光名物であるに拘らず、今はこれをひさいでゐることの少いのは遺憾だ)
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
大日様には方方のお寺にあるやうに柿色や花色の奉納の手拭のさがつた掘りぬき井戸があつて、草双紙に阿波の鳴戸のお鶴がもつてる曲物まげもの柄杓ひしやくが浮いてゐた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
その紙をあけると、蚤取り粉の曲物まげものの様に穴の明いた蓋になって居るからそこから御飯にかける様になって居るんだよ。しめりがこない様にそうするんだろう。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
子供等こどもらあひだまじつて與吉よきちたがひ身體からだけるやうにしてんだ。村落むらものんでるうしろから木陰こかげたゝずんで乞食こじきがぞろ/\と曲物まげもの小鉢こばちして要求えうきうした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひさぐもの多し。膳、椀、弁当箱、杯、曲物まげものなど皆この辺の細工なり。駅舎もまた賑えり。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この子たちはどうして学校へゆくのだろうと気になる。暗い中に曲物まげものが沢山ある。あわあめを造って土産に売るのだそうな。握飯を一つ片づけ、渋茶をすすって暫くここに休む。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
どんな時、誰がどんな病気でも、あんぽんたんが薬をもらってくる時、変だなあとおもうのは、練薬と膏薬こうやく二種ふたいろだけだった。練薬は曲物まげものに入れ、膏薬は貝殻かいがらに入れて渡した。
釣瓶つるべだの、手桶ておけだの、かた手桶だの、注口そそぎくちの附いたのや附かない木の酌器だの、柄杓ひしゃくだの、白樺の皮でつくった曲物まげものだの、よく女が苧やいろんなくだらないものを入れる桶だの
見ると四角やまる曲物まげものの底に、金山寺味噌のようなものを入れて、其上に梅、桃、すももなどの紅や白の花を置き並べたものであるが、蕾もあり開いたものもあり、それを或は扇形、或は菱形
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
宿の息子は一足先へやつて、實川の谷奧に小屋掛して曲物まげものを作つてゐる平野重太郎といふ老人と連れ立つ。老人は米をしよひ石油罐をぶらさげて、此れから又暫く山に入つてゐるのだと云ふ。
黒岩山を探る (旧字旧仮名) / 沼井鉄太郎(著)
すぐけえって何処の人だか手掛てがゝりイ見付けようと思って客人が預けて行った荷物を開けて見ると、梅醤うめびしお曲物まげものと、油紙あぶらッかみに包んだ孩児の襁褓しめしばかりサ、そんで二人とも棄児すてごをしに来たんだと分ったので
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大館町おおだてまちで樺細工が出来ることは前にも述べましたが、この町はむしろ曲物まげものの仕事で記憶されてよいでありましょう。よい「わっぱ」を作ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
薄い皮でしかも強靱であるという性質は早くから、曲物まげものめに利用せられた。曲物のある所に桜皮のない場合はない。それはいつも板を縫う糸の役割を務めた。
樺細工の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それより普通の漆器で出来のよい「わっぱ」だとか、柄杓子えびしゃくなどを選びたく思います。「わっぱ」は曲物まげものの弁当箱で別に汁入もこしらえます。手堅い品になると布引ぬのびきであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)