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暖氣
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だんき
何しろ畫室は、
約束通りに出來てあるから、四
方密閉したやうになつてゐる。
暖爐を
焚く
頃ならば、其の熱で
嚇々とする、春になれば春の
暖氣で
蒸すやうにむつとする。
彼は
長い
時間氷雪の
間を
渉つた
後、一
杯の
冷たい
釣瓶の
水を
注ぐことによつて
快よい
暖氣を
其の
赤く
成つた
足に
感ずる
樣に、
僅少な
或物が
彼の
顏面の
僻んだ
筋を
伸るに十
分であるのに
夫で
彼は
家に
歸つたならば
汁はどうでも、
飯臺の
中はまだ十
分に
暖氣を
保つて
居るだらうといふ
希望を
懷いて、
戸の
開かないことにまでは
思ひ
至らなかつた。
重箱はもう
冷えて
畢つた。
彼の
窶れた
身體から
其の
手が
酷く
自由を
失つたやうに
感ぜられた。
手は
輕く
痺れたやうになつて
居た。
彼は
冷えた
身體に
暖氣を
欲して、
茶釜を
掛けた
竈の
前に
懶い
身體を
据ゑて
蹲裾つた。