日除ひよけ)” の例文
繻子しゅすの模様もついとは思うが、日除ひよけ白蔽しろおいに、卸す腰も、もたれる背も、ただ心安しと気を楽に落ちつけるばかりで、目の保養にはならぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「モードの店」とガラスの切抜文字を貼りつけた飾窓の上で、フランスの三色旗まがいの派手な日除ひよけが、吹きちぎられそうに動いている。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
船は籧篨あじろを編んで日除ひよけ雨除あまよけというようなものをどうにしつらってある。何やら火爐こんろだの槃碟さらだのの家具も少し見えている。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
日除ひよけを軒の高さに張出してあるところから腰掛台なぞを置いてあるところまで、見附きこそ元のかたちとあまり変りはなかったが、内へ入って見ると
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
現在の日野山の草庵を建ててから後にその草庵の東側に粗末ながらも三尺余のひさしを取付けて日除ひよけにして、その下で柴を折ったりするのに楽な様にした。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
あれには本当に困ったなあ。ほら、あの日除ひよけにもなるといって、青桐代りにうえさせたきささげだよ。土用時分になると、毎年忘れずに、向いの家からその実を
しんの出た二重廻ふたえまわりの帯をしめて暑くて照り付くから頭へ置手拭をして時々流れ川の冷たい水でひやして載せ、日除ひよけに手を出せば手が熱くなり、腕組みをすれば腕が熱し
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老舗しにせ日除ひよけは、ほこりを払い、ペンキの禿げた喫茶店はせっせとお化粧をする——若い青年たちは、又、近く来るであろう別荘のお嬢さんに、その厚い胸板を膨らますのである。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そばへ寄って見ると、そこには小屋掛こやがけもしなければ、日除ひよけもしてないで、ただ野天のてん平地ひらちに親子らしいおじいさんと男の子が立っていて、それが大勢の見物に取り巻かれているのです。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
狼籍ろうぜきたりし竹の皮も紙屑も何時いつの間にかはきられて、水うちたる煉瓦の赤きが上に、青海波せいかいはを描きたる箒目ほうきめあと清く、店の日除ひよけや、路ゆく人の浴衣ゆかたや、見るものことごとく白きが中へ
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今日の日も衰へあほつ日除ひよけかな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
古い麦藁帽むぎわらぼうの後ろへ、日除ひよけのためにくくり付けた薄汚うすぎたないハンケチをひらひらさせながら、井戸のある裏手の方へまわって行った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼等の背中に木の葉をして、それをわずかの日除ひよけとしながら、田の草を取って働いていた。私なぞは洋傘こうもりでもなければ歩かれない程の熱い日ざかりに。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
キャラコさんは、船尾のほうまで歩いて行って、派手な日除ひよけの下の揺椅子ロッキンング・チェヤの中に沈み込んだ。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
り下げし仮の日除ひよけむしろかな
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
日除ひよけがはりに路地の片隅へ造りつけた朝顏棚の方へ行くことを慰みの一つにして來たが、いつの間にか枯れ/″\な蔓のみが疎らな竹の垣に殘るやうになつた。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
思い出すとここで暑い朝夕あさゆうを送ったのももう三カ月の昔になる。そのころは二階のひさしから六尺に余るほどの長い葭簀よしず日除ひよけに差し出して、ほてりの強い縁側えんがわ幾分いくぶんか暗くしてあった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「車の方をよく見なかったもの——日除ひよけが掛ってて、よく見えなかったもの——」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あのどんよりとした半曇りのような空かられる巴里の日あたりとは違って、輝きからして自分の国の方の七月らしい日の光が坂道を流れていた。強い照返しは日除ひよけを掛けた車の中にも満ちた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)