断崖きりぎし)” の例文
旧字:斷崖
併し、幸子は、振返りもせずに、どんどん裏木戸から断崖きりぎしの松林の方へ走り去った。旻は踏石の上の庭下駄を突っかけて、その跡を追った。
勝敗 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
このほこらいたゞく、鬱樹うつじゆこずゑさがりに、瀧窟たきむろこみちとほつて、断崖きりぎし中腹ちうふく石溜いしだまりのいはほわづかひらけ、たゞちに、くろがね階子はしごかゝ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
散歩に出た斧田が海沿いの道をみさきのほうへ下りてゆく途中、三方に断崖きりぎしを負ってひとところだけたくましく雑草の茂った小高い台地にさしかかったとき
麦藁帽子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
谷川橋の断崖きりぎしきわにある道しるべ石の文字が、白い残月に、微かに読まれて、その後はただ、たにの水音と風だった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屏風びょうぶのようにつき立った断崖きりぎしで、いおりて行くなどということはとうていできませんでした。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
又同じ桜花の光景が 断崖きりぎしもんあり桜を霞這ひ天上天下てんじやうてんげ知り難きかな とも歌はれてゐる。
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
この心断崖きりぎしの上にいと赤き狐のかみそり見れどえぬかも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
恋をする人のみ知らん断崖きりぎし釣魚てうぎよの台のおもしろきこと
甲斐はまわりの景色を、静かな眼で、飽かず眺めまわした。かの丘、かの松林、その断崖きりぎし。広い河原の、白く乾いた岩や砂利、そして、音立てて流れる水。
争闘の世間へ、人中へ、とうとうと絶えまなくはしってゆく千曲川の激流に声を託して、家の前の断崖きりぎしから、独りでこう、おろおろと、叫んでいる夜もあった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このあたりに、荒城あらき狭屋さやとなえて、底の知れない断崖きりぎし巌穴いわあながあると云って、義経の事がまた出ました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
琅玕らうかん断崖きりぎしづたひ投網とあみうついさりおぢ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
両方から切立った峰のせまっているこの山峡やまかいは、まだかすかに朝の光が動きはじめたばかりで、底知れぬ谷間から湧きあがる乳色の濃い霧は、断崖きりぎしの肌をらし
峠の手毬唄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
断崖きりぎし突当つきあたりますやら、ながれに岩が飛びましたり、大木の倒れたのでさきふさがったり、その間には草樹くさきの多いほど、毒虫もむらむらして、どんなに難儀でございましょう。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
闇の夜は断崖きりぎしも、松の木も
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
断崖きりぎしと断崖とに三方を囲まれ、東のほうへ段さがりに低くなる端が、そのまままた断崖に続いていた。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
えだぶり山毛欅ぶな老樹らうじゆの、みづそらにして、みづうみくもいた、断崖きりぎし景色けしきがある。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
断崖きりぎしの松の木に
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)