すく)” の例文
和歌に代りて起りたる俳句幾分の和歌臭味を加えて元禄時代に勃興ぼっこうしたるも、支麦しばく以後ようやく腐敗してまたすくうに道なからんとす。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
私も出来る事なら、人間両個ふたりの命をすくふのですから、どうにでもお助け申して、一生の手柄に為て見たい。私はこれ程までに申すのです
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
走り出して七、八間、あッと筒抜けの声が夕暗を流れたかと思うと、男女ふたりの姿は、地に張られていた一本の繩に諸足もろあしすくわれて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその弊をすくうには、ただ個人教育の法を参取する一途があるのみである。ここにおいて世には往々昔の儒者の家塾を夢みるものがある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼女かれは単に𤢖の餌食えじきとなるべき若い女の不幸をあわれんで、何とかしてこれすくってりたいと思ったのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、『リグヴェダ』既にアスヴィナウが赤き翼ある馬して海中よりブフギウスをすくい出さしむとあれば、釈尊出生よりずっと前から翼ある馬の譚がインドにあったのだ。
豫め二人で繩を持つて居て追つて來る所をぐつと繩を引つ張つたから足をすくはれたのである。
芋掘り (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
感応かんのうありて、一念の誠御心みこころかない、珠運しゅうんおの帰依仏きえぶつ来迎らいごうかたじけなくもすくいとられて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
恐々こわごわと、すがる手を、郁次郎は自分の手へすくい取った。彼女のいじらしい恋は、爪のさきまで、桃いろに燃えていた。熱い、火のような手だった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
対手あいてが君であつたのが運の尽きざるところなのだ。旧友の僕等の難をすくふと思つて、一つ頼を聴いてくれ給へ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
空屋には偶然にものお葉が居合いあわせて、彼女かれは冬子をすくわんとして𤢖と闘った。そこまでの事は冬子も知っているが、気を失って倒れたのちの出来事はちっとも判らぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
片紙斷簡を將に廢せんとするにすくひて、之を新裝し再蘇せしむるが如きは助長であり、心無く塵埃堆裏に抛置し、鼠牙そが蛀殘しゆざんの禍を蒙らしめ、雨淋火爛の難を受けしむるが如きは剋殺である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
和歌に代りて起りたる俳句幾分の和歌臭味を加へて元禄時代に勃興ぼっこうしたるも、支麦しばく以後ようやく腐敗してまたすくふに道なからんとす。ここにおいて蕪村は複雑的美を捉へ来りて俳句に新生命を与へたり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
朋友の窮をすくひ、貧人の病を療したのは此意より出でたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そしてりょうに、足もとの土をすくい取り、それを持ったまま彼方へ向って歩きだした。前栽せんざいから大庭へ入ったひだりに、まろい山芝の築山がある。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな高利を借りても急をすくはにやおかれんくらゐの困難が様々にある今の社会じや、高利貸を不正と謂ふなら、その不正の高利貸を作つた社会が不正なんじや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うして此処ここへ重太郎が引返ひっかえして来たか判らぬ。おそらくは烈しい吹雪にみちを失って、再びここまで迷って来ると、あたかもお葉が𤢖に殺されんとする所に会ったので、彼は又お葉をすくわんとして闘った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、いきなり彼の脚元へ身を這わせ、虻を打つと見せて、片脚をすくいかけた。すくわれたら後ろのためへもんどりは知れたこと。智深は無意識に体をねじッた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と二人は手を揃えて、やっと舸の中へすくい上げて見ると、女と思いきや前髪立ちの美少年で、水にひたされて蝋より白くなった顔に、わずかな血の痕がくろずんでいた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裸足はだしで飛び出したげん小二は、すぐくいの小舟を解き放して、呉用の体をすくいとり、櫂をあやつッてぎだした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、新七は、あごすくって、唖といっしょに、石を詰めた網ぶくろを、彼の縄目に幾つもいつけた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駈ける背中をこがらしが吹きすくって、てっぽうざるの紙屑を、蝶か千鳥かと、黄昏たそがれの空へ吹き散らした。やがて高く舞ったのが、どこかの屋敷の屋根瓦やねがわらへ、気永にヒラ——と白く落ちてくる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとりが、そのうしろをすくって、彼ののどを締めると、ひとりがすぐに、足をつかむ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つかみ止めている、彼の腕くび、それをすくってグッと身を沈める。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
李逵は足をすくわれて転ぶ。先生は右往左往する。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高氏は、その手をすくい取って
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)