承塵なげし)” の例文
ある時、須磨子が湯上りの身体からだに派手な沿衣ゆかた引掛ひつかけてとんとんと階段はしごだんあがつて自分の居間に入ると、ふと承塵なげしに懸つた額が目についた。
かくてもいまいかりは解けず、お村の後手うしろでくゝりたる縄のはし承塵なげしくぐらせ、天井より釣下つりさげて、一太刀斬附きりつくれば、お村ははツと我に返りて
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
承塵なげし造りの塗ガマチに赤銅七子ななこの釘隠しを打ちつけた、五十畳のぜいたくな大広間の正面に金屏風を引きまわし、阿蘭陀おらんだ渡りの大毛氈を敷きつめ
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
奇談クラブの集会室、幽幻な感じのする真珠色の微光が、承塵なげしの裏から室全体を海の底のように照して居る中に立って、幹事の今八郎は斯う口を開きました。
私は始て気が附いて、承塵なげしに貼り出してある余興の目録を見た。不折ふせつまがいの奇抜な字で、余興と題した次に、赤穂義士討入と書いて、その下に辟邪軒秋水へきじゃけんしゅうすいと注してある。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
承塵なげしにあッた薙刀なぎなたも、床にあッた鏁帷子くさりかたびらも、無論三郎がくれた匕首もあたりには影もない。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
(播磨は股立を取りて縁にあがり、承塵なげしにかけたる槍のさやを払つて庭にかけ降りる。)
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
承塵なげしには池の水照みでりの影ゆらぎまだ春早し鼠のをどり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
修行者しゅぎょうじゃが、こんな孤家ひとつやに、行暮ゆきくれて、宿を借ると、承塵なげしにかけた、やり一筋で、主人あるじの由緒が分ろうという処。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
床も、承塵なげしも、柱はもとより、たたずめるものの踏むところは、黒漆こくしつの落ちた黄金きんである。黄金きんげた黒漆とは思われないで、しかものけばけばしい感じが起らぬ。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一可恐おそろしいのは、明神の拝殿のしとみうち、すぐの承塵なげしに、いつの昔に奉納したのか薙刀なぎなた一振ひとふりかかっている。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ト見ると襖から承塵なげしへかけた、あまじみの魍魎もうりょうと、肩を並べて、そのかしら鴨居かもいを越した偉大の人物。眉太く、眼円まなこつぶらに、鼻隆うして口のけたなるが、頬肉ほおじしゆたかに、あっぱれの人品なり。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
氷室ひむろ朔日ついたちと云って、わかい娘が娘同士、自分で小鍋立こなべだてのままごとをして、客にも呼ばれ、呼びもしたものだに、あのギラギラした小刀ナイフが、縁の下か、天井か、承塵なげしの途中か、在所ありどころが知れぬ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)