ぶっ)” の例文
藤左衛門は幾度となく、駕籠のうしろや天井へ頭をぶっつけた。白鉢巻はしているものの元結もとゆいねて、髪はざんばらに解けかけている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲「なに肥料こやしをしないものはないが、直接じかに肥料を喰物くいものぶっかけて喰う奴があるか、しからん理由わけの分らん奴じゃアないか」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「これぎり屹度きっと家へ上げちゃならないぞ。今度やって来やがったら水でもぶっかけてやれ。」
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女のしどろもどろな声が、私の手でしっかと抑えつけているきれぶっつかって来ます。
麻酔剤 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
磯は黙って煙草をふかしていたが、煙管きせるをポンと強くはたいて、ぜんを引寄せ手盛てもりで飯を食い初めた。ただ白湯さゆぶっかけてザクザク流し込むのだが、それが如何いかにも美味うまそうであった。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
大抵一人の人間にぶっつかろうというには、色々な準備が、支度がるものなのだ。
れて畳のやぶれにもつっかからず、台所は横づけで、長火鉢の前から手をのばすとそのまま取れる柄杓ひしゃくだから、並々と一杯、突然いきなり天窓あたまからぶっかぶせる気、お勝がそんな家業でも、さすがに婦人おんな
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
外は往来のはげしい本町の真中で、内は閑々たる別天地、半鐘がジャンとぶっつからない限りは他人の来る気遣きづかいはないところで、これらの親爺連の心配になることは、夕飯を蕎麦そばにしようか
それをぶっつけて吃驚びっくりさせて見たり、そんなことばかりしていた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
さいをつかんで、目つぶしに、喧嘩相手の顔へぶっつける。何をっと、相手も負けてはいない。手当り次第である。煙草入たばこいれ、つぼ、茶碗、と抛りつけた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云いながら出に掛ったが、玻璃がらすでトーンと頭をぶっつけて、あわてるから表へ出られやしません。
おれが十二の小僧の時よ。朝露の林を分けて、ねぐらを奥山へ出たと思いねえ。けえろつらぶっかけるように、仕かけの噴水が、白粉おしろいの禿げた霜げた姉さんの顔を半分に仕切って、洒亜しゃあと出ていら。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼間だったら、不気味な銃尾や凶々まがまがしい銃身など随分ぞっとする代物にちがいないのだが、今この暗闇と、孤独と、悩みの中では、まさしく探し求めていたものにぶっつかったような気がした。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「杖か棒か、なにしろすごい物をぶっつけやがった。あのうなって飛ぶ棒の先でこーんと一つ頭でもやられたらそれりだ。——なにしろ油断はできねえぞ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実は小兼に一寸ちょっと其の橋渡しを頼もうと思っているうち、他に客でも出来たか逃げたので、甚だ失敬だが僕がぶっつけにと立戻って来る途中で、前の始末で助けて上げたは、是も全く御縁だから