打出うちで)” の例文
くちごもって、お綱は、フイと心に何ものかをえがく様子である——打出うちでヶ浜の夜寒よさむから、月夜の風邪かぜはいっそう根深いものとなったらしい。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
打出うちでの浜を来るころに、源氏はもう粟田山あわたやまを越えたということで、前駆を勤めている者が無数に東へ向かって来た。
源氏物語:16 関屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
隠蓑かくれみの」なる言葉は『信綱記』にもいう如く、「鬼もちたる宝は、かくれ蓑、かくれ笠、打出うちで小槌こづち、延命小袋」
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
隣の坊ちゃんを竜宮りゅうぐう小僧になぞらえて見る。ここでは坊ちゃんは海表かいひょうの世界から縁あって、鶴見に授けられたものとする。坊ちゃんは打出うちで小槌こづちを持って来る。
これは罪人を槌で打ち罰した神らしい。『梅津長者物語』にも大黒天が打出うちでの小槌で賊を打ち懲らす話がある。
昼にここから見た打出うちでの浜の光景が、畳と襖一面にぶち抜いて、さざなみや志賀の浦曲うらわの水がお銀様の脇息きょうそくの下まで、ひたひたと打寄せて来たのでありました。
一人は濃いはなだ狩衣かりぎぬに同じ色の袴をして、打出うちでの太刀をいた「鬚黒くびんぐきよき」男である。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さゝに、大判おほばん小判こばん打出うちで小槌こづち寶珠はうしゆなど、就中なかんづく染色そめいろ大鯛おほだひ小鯛こだひゆひくるによつてあり。お酉樣とりさま熊手くまで初卯はつう繭玉まゆだま意氣いきなり。北國ほくこくゆゑ正月しやうぐわつはいつもゆきなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふところに住馴し京都の我が家を立出て心細くも東路あづまぢへ志ざしてぞ下りけり元よりなれぬ旅と云殊に男の懷ろに當歳の子を抱きての驛路うまやぢなれば其つらさは云も更なり漸々にして大津の宿を辿たどすぎ打出うちでの濱を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「この張扇一本、打出うちで小槌こづちみてえなものでげす」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
大津の打出うちではまで、あの雷の落ちた晩に、雨宿りをしていたかわら小屋で、ゆくりなくこの人を見て、お綱は初恋を知った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例えばこいだとか菊水などは前者で、打出うちで木槌こづち扇子せんすの如きは後者の場合であります。煙で充分にくすぶり、これをよくきこみますから、まるで漆塗うるしぬりのように輝きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「あるどころではない。何でも好きなものの振り出せる打出うちで小槌こづちという宝物さえある。」
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこにいる見返りお綱の、実の妹弟きょうだいなんでございます。で、本人に聞いてみると、弦之丞様とは、大津の打出うちではまとやらで、一度シンミリとお話を
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
官庫は彼女の打出うちで小槌こづちであり、彼女の物慾を満たす殿堂です。お蝶は寒さも怖ろしさも忘れている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この辺から打出うちではまにかけても、羽柴方の軍兵は充満していて、三井寺方面から明智兵を掃討して来た堀秀政とその旗下もまた、附近の松林のなかで、一息ついていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまち湖面の波を白くかすって、伊吹いぶきの上をめぐり、彦根ひこねの岸から打出うちではまへともどってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
打出うちではまの松原にも、あなたこなたに、根こそぎにされた痛ましい松の木が見える。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)