愛相あいそ)” の例文
微酔以上なそぞろ心地も手助てつだっていたことだし、稀れには、彼女がどんな愛相あいそを見せるかと、ふと見たい気もしたものにちがいない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それではおいとまいたしましょう。おさない事を、貴僧あなたにはお恥かしいが、明さんに一式のお愛相あいそに、手毬をついて見せましょう、あの……」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども、天魔に魅入られたものと親父も愛相あいそつかして、ただ一人の娘を阿父さん彼自身より十歳とをばかりも老漢おやぢの高利貸にくれて了つたのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
本屋は、お愛相あいそのつもりで、チヤーチルの作物さくもつは何一つ残さず読んだ。なかには十回も繰返したのがあると言つて附足つけたした。
お島の目にも、愛相あいそのいい青柳の人柄は好ましく思えた。彼は青柳から始終お島坊お島坊と呼びなずけられて来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
勝は外を通つてる人の聲を聞いても時々氣疎けうといことがありますぞな。ようあんな下卑たことを大きな聲で喋舌しやべつて、げら/″\笑つて居られると愛相あいそが盡きてしまふ。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
糯米もちごめぐことから小豆あずきを煮ること餅をくことまで男のように働き、それで苦情一つ言わずいやな顔一つせず客にはよけいなお世辞の空笑いできぬ代わり愛相あいそよく茶もくんで出す
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
特に、彼への杯には、朱富自身が、しゃくをしていた。——ほか数十人の兵ときては、酌の面倒や愛相あいそはいらない。みつへたかったはえのような黒さである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軽薄でなければいつはり、詐でなければ利慾、愛相あいその尽きた世の中です。それほど可厭いやな世の中なら、何為なぜ一思ひとおもひに死んで了はんか、と或は御不審かも知れん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼女はお愛相あいそを言うのだったが、作家というもの、ことにこの資財家の友人である庸三なぞの生活が、どんなものだかという見当もつかぬものらしかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのお嬢さんは財布には金貨を、口はお愛相あいそをたつぷり持合はせてゐるのを自慢にしてゐるたちの女であつた。
「だまって持って来い。こう、すぐおあとだよ。それから、女将おかみにここへ来て、お愛相あいそでもしねえかといってやれ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴方が余所外よそほかに未だ何百人愛してゐらつしやるかたが有りませうとも、それで愛相あいそつかして、貴方の事を思切るやうな、私そんな浮気な了簡りようけんではないのです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
三須の場合も、お愛相あいそをするのは加世子であった。藤子は入口のふすまに、いつも吸いついたように坐っていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
渓仙氏はうちにゐた。唐茄子とまとのやうな真つ赤な客の顔を見ると、つい愛相あいそが言つてみたくなつた。
初対面よりだんだんに愛相あいそのよくなるのがおかしいくらいであった。源吾は、あわよくば、宗徧に従って、一度、吉良家の茶会に列してみたいと願っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああなってしまっちゃ、あの人ももう駄目よ」おゆうは鶴さんに愛相あいそがつきたように言った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もしかお互に狐のやうな尻つ尾を持つてゐたなら、犀水氏は立派な画家ゑかきは皆尻つ尾を持つてるものだと言ふだらうし、栖鳳氏もすぐれた批評家は大抵さうだとお愛相あいそを言つたに相違なかつた。
母親はお島の前では、初めて来た婿にも、愛相あいそらしいことばをかけることもできぬ程、お互に神経が硬張こわばったようであったが、鶴さんと二人きりになると、そんなでもなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「えゝ/\、よござんすとも。」と主婦かみさんは愛相あいそ笑ひをしながら言つた。
才気ばしったお愛相あいその好い師匠を中心に、しばし雑談に時を移したが、その間も葉子は始終うつむきがちな蒼白あおじろい顔に、深く思い悩むらしい風情ふぜいを浮かべて、黙りとおしていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ある時門司もじで若い芸妓げいしやが病気で亡くなつた。流行はやりだけあつて、生きてゐるうちには、色々いろんな人に愛相あいそよくお世辞を言つてゐたが、亡くなる時には誰にも相談しないでこつそり息を引取つた。
銀子もざっくばらんに挨拶あいさつした。彼女は客商売をしたに似合わず、性分としてたらたらお愛相あいそのいえない方であった。好いお嬢さんねとか、綺麗きれいねとかはらに思っていても口には出せないのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
愛相あいそを言ふ人があると、急に顔の相好さうがうを崩して
しかしお絹は愛相あいそよく迎えて、うまく取りつくろっているらしかった。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)