うれ)” の例文
此樣こんな時に、もしうちから誰かむかひに來て呉れたら、自分は何樣どんなにうれしかツたか知れぬ。併し其樣そんな事を幾ら考へてゐたツて無駄だ。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
木挽町主人がうれしそうに「三十六、もう玄米を喰べなくとも宜いとさ」と云われた。本当に悦しそうだった。皆喜んで呉れていた。
新婚旅行とは噂を聞いても歯が浮くような気がするが、僕でも女房を娶ったら、うれしくて可愛くて、蜜月旅行ハネムーンを企てたくなるかも知れん。
空想としての新婚旅行 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
あたり前ならば大学生になれたうれしさに角帽をかぶって歩いてもいい時であるが、私はんだか世の中が面白くなくって困った。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
「ほう、——そいつはうれしいね、君と僕とは、して見ると趣味の上で、一脈の相通ずるものがあるのかも知れないね。ははは!」
露路の友 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「起さうと思へばすぐにも起きます。寝かして置けば百二十五歳までも寝て居ります。」彼は少なからず自分の警句をうれしがつて云ひ続けた。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
「さあ、退いた、退いた」と、源は肩と肩との擦合すれあう中へ割込んで、やっとのことでたまりへ参りますと、馬はうれしそうにいなないて、大な首を源のからだへ擦付けました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「よくやってくれた。君の勇気と果断に感謝する。そして、君と一緒に死ぬことを、わしは、うれしいとおもう」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
靜かに引きしまつた自分の心の中へ何が蘇生よみがへつて來るのか、何が浮んで來るのか、私はそれを求めてゐる。恐ろしさとうれしさの期待を持つてそれを求めてゐる。
霧の旅 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
暖い卵色の太陽が、二つぴったりと並んだ仲のよい二人のお友達の影を、さもうれしそうに、明るい白い障子の上に、パッと照し出しました。〔一九二〇年五、六月〕
いとこ同志 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
置物などを飾っている浅井を振りかえって、お増はうれしそうに浮き浮きした調子で言いかけた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
少年 (無邪気に、さもうれしげに)お姉様、お姉様、私はお姉様を尋ねて来たのよ。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うれしくなって、なにしろ彼は可愛いいので、だがすこしばかり眼に涙をためて
職業婦人気質 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
雲霧は、ちょっと、うれしかった。音もなく牢を飛び出ると、牢路地を指さして
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奴さんを待っていた細君がうれしそうな顔をして云うのを、何も云わずににらみつけたさ、細君はそのすごい眼の光を見て、どうしたことが出来たのかと思って、口をつぐんではらはらとして立ったのだ
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
見れば、自分の爲に新しい茶碗ちやわんかくはしまでが用意されてあツた。周三は一しゆあつたか情趣じやうしゆを感じて、何といふ意味も無くうれしかつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あちらでもこちらでも、うれしそうな声が聞え、荷物の整理が始まった。僕は無茶苦茶に忙しくなり、自分の荷物どころの騒ぎではなかった。
「妙ですね。私なぞ誰れからでも親切な手紙を貰ふとうれしいし、此方から書いて送るのもいゝ氣持がしますわ。」
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「坊っちゃん」傍でメリケン壮太がうれしそうに叫んだ「こいつですよ牧師ヤンセンは。このかばんの中に何もかも入っていますぜ。畜生、これでメリケン壮太の男も立ったぞ」
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「おお、山路君!」陳君は、余りのうれしさに、涙をいっぱい両眼にたたえて
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
……何故お前さんはそんなに寂しい顔をしているの、もっとうれしそうな顔をおしなさいよ。姉様と一緒にいるんじゃないかい。ね、姉様と一緒に。(小声にて)別れが二人の前に迫ってはいれど。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人のめるのもうらやむのもうれしいとは思召さないのでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小鐘は心底からうれしさうな声を挙げて道順を教へた。
妹はうれしさうに云つて、臺所のことは下女にまかせて置いて、火鉢の側に坐つて、身内の噂をし出した。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
女子 こんに、そうしておくれなら、どんなに私はうれしいか知れぬ。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
龍介は二三度その名を口の中でつぶやいたが、急にうれしそうに叫んだ。
幽霊屋敷の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「好いね、のんきが可いね。」とおふくろは、上づツた聲で、無法むはふうれしがり、「一日でも可いから何うかして其様なことにしたいもんだ………何と謂われても管はない、私はのんきになりたいね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
僕は、うれしげに叫んだ。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
近村に傳染病があるから、この秋の祭禮には神輿みこしを出して騷いだりすることを禁ずるといふ父の方針が口汚なく攻撃されてゐた。若い漁夫れふしどもは鼻を鳴らしてうれしさうにその演説を聞いてゐた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
葉山行のことをも、さもうれしい音信たよりのやうに吹聽した。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)