したゝ)” の例文
五十前後のよく禿げた男、愛想は好いがしたゝかな感じのするのが、お蝶の死骸を遠眼で見て、先づ平次に一應の挨拶をするのでした。
鉄瓶の如き堅いものすら水のしたゝかに入つてゐるのを五徳の上に手荒く置くやうにすれば、やはり破損して水が洩るやうになる。
些細なやうで重大な事 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
一方、正文はこの大人と子供とざり合つたやうな、身体だけは大振りな、女にかけてはしたゝかな息子を前にして途方に暮れた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
「早松がかう出るんでは、今年や松茸あかんやろで。」と、助役は大きな欠伸を一つして、くたびれた腦へ、新らしい早松の香氣を、鼻の穴からしたゝかに吸ひ込んだ。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
『さァ、何方どつち何方どつち?』とつぶやいて、功能こうのうためすために右手めてつた一かけすこめました、するとあいちやんはたちまち、其顎そのあごしたしたゝたれたのにがついて、不圖ふとると
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
之まで名だゝるしたゝか者を子供のように扱った警吏達も、すっかり手こずって終った。今は乃木将軍が旅順を攻め落した時のように遮二無二、口をこじ開けてゞも白状させようとしているのだ。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
見たところ、四十近い好い男、小紋の羽織、つむぎらしい袷、煙草は呑まず、澁茶にも手を觸れず、いかにもしたゝかな感じのする中年者です。
左吉松ほどのしたゝかな惡黨が、確かな相棒を一人持つて居るなら、何を苦しんで露見のおそれのあるやうな馬鹿な奇計をもちひるでせう。
勝氣で剛情で、豊滿で色つぽくて、そして長い間泥水に浸つた揚句、人を人とも思はないやうな、したゝかな修業が積んでゐたのです。
それは妾のお紺と、先刻明神下の平次の家を訪ねた姪のお國ですが、輕く目禮しただけ、眉をも動かさないのは、なかなかのしたゝかさです。
この番頭と一緒に、菊屋で幅をきかしてゐるのは、法印ほふいんの無道軒で、あれは猫又と綽名あだなのあるしたゝか者、一と筋でいける男ではありません。
仔細しさいといふのは、源助が若い時分に關係した女、——今では、女巾着切のしたゝか者になつてゐるお兼に迫られ、その手切金の調達にきうして
四十といふにしては若く、何んとなくしたゝかな感じのする男ですが、噂の通り良い男で、何處か慇懃いんぎん無禮なところがあります。
念入の醜男ぶをとこのくせに、輕捷で精力的で、何となくしたゝかさを感じさせる正三郎——丹之丞の遠い從弟とりいふ、針目正三郎その人だつたのです。
平次は相手構はず念を押しました、この娘は、若さも美しさも飛越えて、性根のしたゝかなところのあるのを、初對面の平次に感じさせたのでせう。
中年者のしたゝかな顏には、さり氣ないうちに敵意が燃えて、出來ることなら平次を一歩も中へは入れ度くない樣子でした。
元日早々店に頑張つて居るやうな男で、體格も立派、口上も筋が通り、決して好い男ではありませんが、何んとなくしたゝかさを感じさせる男でした。
平次の調子は意地惡くさへ聽えますが、それは品吉のしたゝかさと、その行屆き過ぎる智慧に對する反撥でもあつたのです。
五十を越したばかり、痩せて骨張つてはをりますが、精力的で金儲けが上手で、一代に江戸でも何番といはれた富を築いただけのしたゝかさがあります。
眞砂町の喜三郎は、お勝手に飛んで行くと、其處から引つ立てるやうに、したゝか者らしい下女のお兼をつれて來ました。
吉兵衞は五十男で、世の中を世辭笑ひと妥協で暮して來た男、こんな人間が案外したゝかな魂の持主かもわかりません。
その蝙蝠冠兵衞かうもりくわんべゑほどのしたゝか者も、傳通院前の成瀬屋に忍び込んだ時は、取返しのつかぬ失策をしてしまひました。
小肥りのしたゝかさうな面魂ですが、舞臺から客を笑はせ馴れてゐるので、何處か小悧巧こりかうらしい愛嬌のある男でした。
唯の町人の隱居と思つたのが、江戸で一番したゝかな御用聞、錢形の平次と判ると、そびらを返してサツと飛んだのです。
跡取は歳は一つ下でも本妻の子の秀太郎と、世間でも親類方でも疑はなかつたが、妾のお若といふのがしたゝかで、殿樣に油をかけて御寵愛ごちようあいを一人占めにした。
したゝか過ぎるほど強かな感じのする商人ですが、一人娘を喪つた悲歎は、しやうも他愛もなく身に沁みるのでせう。
語り傳への山莊太夫さんしやうだいふのやうな男で、隨分諸方のうらみを集めて居りますが、鬼とでも取つ組みさうな恐しい強氣で押し通し、幾度となく刃の下を潜つたしたゝか者です。
これは昨夜したゝかに水を呑んだために、まだ半病人の有樣で、お勝手に近い自分の部屋に休んで居りました。
御守殿お茂與といふのは一時深川の岡場所で鳴らしたしたゝか者で、大名の留守居や、淺黄裏あさぎうらの工面の良いのを惱ませ一枚ずりにまでうたはれた名代の女だつたのです。
人一倍したゝかな魂と力を持つた半兵衞を討ち取る望もなく、心ならずも折を狙つて月日を過してゐるうち、昨夜といふ昨夜こそは、まことに千ざいぐうの時節到來
平次殿の仰しやる通り、風呂場にはしたゝかに血のついた、袷が一枚、たらひにつけてありました。これは御厚志にむくゆるために、密かに申し上げる。萬事御内分に——
中年者のしたゝかな男ですが、平次には江戸で恩になつたことがあり、折角呼んだのだから、存分に御馳走もして、自分の近頃の威勢も見せてやり度かつたのでせう。
四十男のしたゝかさ、長い間の十手れで、人に彼れこれ言はれるのが、我慢のならない屈辱だつたのです。
色の淺黒い、キリヽとした男で、二十七といふにしては少し老けて居りますが、何んとなく油斷のない面構へで、逢つて話してゐると、妙にしたゝかな感じを與へます。
若旦那の初太郎といふのは、二十三四の好い男ですが、父親の半兵衞の鋭さ、したゝかさとは似もつかぬ典型的な坊ちやんで、何を訊いてもお袖以上にらちがあきません。
せめても宗次郎の身が立つやうにしてやるつもりでしたが、したゝか者の五左衞門は、美しいお秋を手元に留め置き乍ら、あゝのかうのと言ひ延ばして、容易のことでは
「慾得づくで出たのかも知れないよ、——三十三四のしたゝかな男が、誘拐される筈もあるまいから」
したゝかな四十男で押にも力にも不足のないのが、斯うと見込んで下手人を擧げそびれてゐたばかりに、錢形の平次が飛んでもないでんぐり返しの種を持込んで來たのです。
みにくくて正直で、そしてしたゝかな魂を持つた奉公女は、妙に離屋の隱居に同情を寄せてゐる樣子です。
お妾のお若といふのは、櫓下やぐらしたで鳴らしたしたゝか者で、引拔くと尻尾が九本えてゐる代物ですよ。
襲撃の寸前、聞髮を容れず、鐚錢びたせんが一枚飛んで來て、曲者のびんのあたりをしたゝかに打つたのです。
後家のおかくが奉公人を使つて先代の家業を續けてゐますがね、——この女は男まさりのしたゝか者で、先代の遺言だからと言つて、三千兩といふ大金を投出して、旗本の株を買ひ
長い間のおたな者の生活で、したゝかな魂と、柔順な態度と、そして利害に敏い眼とを養はれたらしい久治は、平次の拔け目のない問ひの前に、自若として愛嬌笑ひを忘れません。
四十二といふにしては、子供つぽいところのある丸顏で、一應愛嬌者に見えますが、こんなのは案外したゝかな魂の所有者であることは、いろ/\の場合に平次は經驗して居ります。
一の子分の喜太郎は、少し光澤つやのよくなつた顏を撫でながら、したゝかな微笑を浮べました。
滿面を涙に洗はれて、顏は美しく上氣のぼせて居りますが、うるんだ眼は精一杯に見開かれて、したゝかな中年男の寅松に、言葉では言ひ解くことの出來ない自分の無實を許へるのです。
勇三郎よりは幾つか上でせうが、小意氣で、したゝかで、何んとなく戰鬪力を感じさせます。
が、谷五郎はしたゝかな鬪手でした。平次も少し持て餘して、二三枚錢を飛ばしたところへ
僅かに刄の平で受けましたが、二枚目はしたゝかに頬骨へ、三枚目は額へ、——眼へ——。
その林右衞門が死んで、後には何萬兩といふ身上が殘つたが、番頭の七兵衞といふのがしたゝか者で、世間から惡七兵衞とか何んとか言はれながら、貧乏ゆるぎもさせずに商賣を續けてゐる——