巌壁がんぺき)” の例文
野望のぞみに向って突進し、累卵るいらん巌壁がんぺきになげうつような真似まねをして、身をほろぼしてくれねばよいが——と、思うての——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
一部は橋のたもとから突出たいわさまたげられてこゝにふちたたえ、余の水は其まゝ押流して、余が立って居る岬角こうかくって、また下手対岸の蒼黒い巌壁がんぺきにぶつかると
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ただ谷が莫迦ばかに深かいのと巌壁がんぺき開鑿かいさくして造った桟道とは流石さすがに宏壮、雄大の景だと思われた。大網おおあみを過ぐればやがて福渡ふくわたり。この辺の景色は絶景といっても差支えあるまい。
鉄橋を潜ると、左が石頭せきとう山、俗に城山である。その洞門のうがたれつつある巌壁がんぺきの前には黄の菰莚むしろ、バラック、つるはし、印半纒しるしばんてん、小舟が一、二そう、爆音、爆音、爆音である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼女が勢力にまかせて押退けたおりには、奥深くへと自然に開けていった壁が——何の手ごたえもない幕のように見えた壁が、巌壁がんぺきのように巍然ぎぜんそびえたっていて、はじき飛ばした。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
路がようやなるくなると、対岸は馬鹿〻〻しく高い巌壁がんぺきになっているその下を川が流れて、こちらは山が自然に開けて、少しばかり山畠やまばたけが段〻を成して見え、あわきびが穂を垂れているかとおもえば
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
朝日が巌壁がんぺきに照りはえて美しい。やがてヴェスヴィオも見えて来た。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ふたゝふ、東向ひがしむかうに、そのくも日暮崎くれのさき御室みむろしようならんで半島はんたう真中まんなかところくもよりすべつてみづうみひた巌壁がんぺき一千ぢやういたゞきまつ紅日こうじつめ、夏霧なつぎりめてむらさきに、なか山肌やまはだつちあかく、みぎは密樹緑林みつじゆりよくりんかげこまやかに
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)