巌乗がんじょう)” の例文
旧字:巖乘
重太郎兄さんは朝寝が好きで、房松兄さんは鶏のように早起きで、一方は弱虫で一方は巌乗がんじょうで、一方は金遣いが荒くて、一方はケチで
その養子というのは、日にやけた色の赤黒い、巌乗がんじょうづくりの小造こづくりな男だっけ。何だか目の光る、ちときょときょとする、性急せっかちな人さ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
純一は国のお祖母あ様の腰が曲って耳の遠いのを思い出して、こんな巌乗がんじょうな年寄もあるものかと思いながら、一しょに這入って見た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
薄暗いこちらの廊下ろうかにいると、出窓はこの家を背景にした、大きい一枚ののように見える。巌乗がんじょうかし窓枠まどわくが、ちょうど額縁がくぶちめたように見える。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私がその紙片の方を一寸見てる間に、刑事はす早く私に近寄ると、私の両手に繩をかけて了いました。見れば入口の外には一人の巌乗がんじょうな巡査が控えているのです。
平次は巌乗がんじょう井桁いげたに手を掛けて覗いて見ました。この辺の井戸ですから石を畳み上げて立派には出来ていますが、ひどく浅い様子です。
先生は束髪に結った、色の黒い、なりの低い巌乗がんじょうな、でくでくふとった婦人おんなの方で、私がそういうと顔を赤うした。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
血色のい、巌乗がんじょうな大村は、純一と歩度を合せる為めに、余程加減をして歩くらしいのである。小川町の通を須田町の方へ、二人は暫く無言で歩いている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
小田原町おだわらまち城内公園に連日の人気を集めていた宮城みやぎ巡回動物園のシベリヤ産大狼おおおおかみは二十五日(十月)午後二時ごろ、突然巌乗がんじょうおりを破り、木戸番きどばん二名を負傷させたのち箱根はこね方面へ逸走いっそうした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
五十六七——ちょっと見は六十以上にも見えますが、長い間戸外生活と労働で鍛えて、鉄のように巌乗がんじょうなところがあります。
肉はひからび、皮しなびて見るかげもないが、手、胸などの巌乗がんじょうさ、渋色しぶいろ亀裂ひびが入つて下塗したぬりうるしで固めたやう、だ/\目立つのは鼻筋の判然きっぱりと通つて居る顔備かおぞなえと。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
大村と並んで歩くと、ややもすればこの巌乗がんじょうな大男に圧倒せられるような感じのするのを禁じ得ない。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一本の巌乗がんじょうはりが、その中ほどを貫通しているのを見ると、幽霊を宙乗りさせる趣向が、誰にでも浮びそうです。
やがて二階に寝床ねどここしらえてくれた、天井てんじょうは低いが、うつばりは丸太で二抱ふたかかえもあろう、屋のむねからななめわたって座敷のはてひさしの処では天窓あたまつかえそうになっている、巌乗がんじょう屋造やづくり
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二階の戸締りも厳重以上で、豊次郎に言わせると、掃除のとき開けるだけ、それに恐ろしく巌乗がんじょう格子こうしがあって、外から入ることなどは思いも寄りません。
薄汚れて、広袖どてらかと思う、袖口もほころびて下ったが、巌乗がんじょうづくりの、ずんと脊の高い、目深に頬被ほおかぶりした、草鞋穿わらじばきで、裾を端折らぬ、風体の変な男があって、懐手で俯向うつむいて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金はみんな土蔵の中の恐ろしく巌乗がんじょうな金箱に入れて、いちいち念入りに錠をおろしてある
何んですかねえ、十文字に小児こども引背負ひっしょって跣足はだし歩行あるいている、四十恰好かっこうの、巌乗がんじょうな、絵にいた、赤鬼あかおにと言った形のもののように、今こうやってお話をしますうちも考えられます。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
耳をおおうまで髪の伸びた、色の黒い、巌乗がんじょう造りの、身の丈抜群なる和郎わろ一人。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婆やのお篠は、五十前後の巌乗がんじょうな女で、いざとなったら、相当力もありそうですが、不思議なことに大して争った様子もなく、床から半身をのり出してはおりますが、至って平穏に死んでいるのです。