屋敷町やしきまち)” の例文
麹町区六番地の陰気な屋敷町やしきまちの中に、明治初期の様式の、実に古風な煉瓦造りの二階建てが、ポツンと取残された様に建っている。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つぶやいてひと溜息ためいきする。……橋詰はしづめから打向うちむか眞直まつすぐ前途ゆくては、土塀どべいつゞいた場末ばすゑ屋敷町やしきまちで、かどのきもまばらだけれども、それでも兩側りやうがは家續いへつゞき……
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は三十分と立たないうちに、吾家わがいへ門前もんぜんた。けれどももんくゞる気がしなかつた。かれは高いほしいたゞいて、しづかな屋敷町やしきまちをぐる/\徘徊した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
小僧こぞうは、主人しゅじんにいいつかって、両方りょうほうのかごにいくつかのすいかをけていれました。それをかついで、まちなかってあるきました。また、さびしい屋敷町やしきまちほうへと、はいっていったのであります。
初夏の不思議 (新字新仮名) / 小川未明(著)
屋敷町やしきまちのことで、まだよいうちであったにもかかわらず、あたりはいやにしんとしずまり返っていた。時々犬の遠吠が物淋しく聞えて来たりした。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
淺蜊あさりやア淺蜊あさり剥身むきみ——高臺たかだい屋敷町やしきまちはるさむ午後ごご園生そのふ一人ひとり庭下駄にはげた爪立つまだつまで、そらざまなるむすめあり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
空に星がまばたき始める頃、まるで日が暮れ切るのを待ってでもいた様に、気違い葬儀車は、牛込うしごめ矢来やらいに近い、非常に淋しい屋敷町やしきまちの真中で、ピッタリと停車した。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかるべき門は見えるが、それも場末で、古土塀ふるどべい、やぶれがきの、入曲いりまがつて長く続く屋敷町やしきまちを、あまもよひの陰気な暮方くれがた、その県のれいつかふる相応そうおう支那しなの官人が一人、従者をしたがへて通りかかつた。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
暗い屋敷町やしきまちにはまったく人通りがなかった。しかし、彼は、とある街角で、びっくりして立ち止まった。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
斎藤は、一年ばかり前から、山の手のある淋しい屋敷町やしきまち素人屋しろうとやに部屋を借りていた。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その向うは森になっていて、森のわきを歩いて行くと、生垣いけがきへいばかりの屋敷町やしきまちで、ところどころに草の生えた空地あきちがあった。ボンヤリした街燈をたよりに、やっと目的の家にたどりついた。
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)