小面こづら)” の例文
小面こづらの憎い味方だが、云い分は良策だし、頼もしいところもあるので、みなその言に従って、敵の来るのを、待ち構えていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小面こづら憎いと思ひながらも、お絹のすぐれた肉體と、その輝かしい若さに、誰でも引きつけられずにはゐられなかつたのです。
鼻の先きで笑っているのを、女は小面こづらが憎いようにちょっと睨んだが、すぐに思い直したようにほほえみながら、まず自分の身の上を打ち明けた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「こちらで満足のできない状態ではなんとお約束してもどうもむを得ませんでしょう」とこの小面こづらの憎いのがうそぶいた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
まれには小面こづらの憎い才女という者もあるか知らぬが、それは正しい学問をしなかったためで、多くのやかましい女房は、勿論もちろん愚痴無識の産物である。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「あのロボのやつ、いまごろはかたくなってくたばっていることだろう。」と勇んで、昨日きのうのところへってみると、小面こづらにくいたらありゃしません。
意地ばって楯をつくころは女の小面こづらを見ても腹が立つものだそうでげすが、さて先方さきから折れて出れば元より憎い女でない、廃業祝ひきいわいには当人の顔は勿論でげすが
私は小面こづらにくしと感じたが、米人たちは、日露戦争以来、日本は他国を侵略したというのである。
そういう次第だから、作おんなのお増などは、無上むしょうと民子を小面こづら憎がって、何かというと
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
反對派の手強い壓迫の底には、單に一期や二期の利益配當を欲しがる慾得づくばかりで無く、事毎に社會思想家がつて、理想論を振廻す田原を、小面こづら憎く思ふしうとめ根性が潜んで居た。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
年は随一若けれども客を呼ぶに妙ありて、さのみは愛想の嬉しがらせを言ふやうにもなく我まま至極の身の振舞、少し容貌きりようの自慢かと思へば小面こづらが憎くいと蔭口かげぐちいふ朋輩もありけれど
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お松も、小面こづらの憎いイヤな奴と思いながらも、何か尋ねてみたい気になって
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
僕の隣にゐた英吉利イギリス人も細君と顔を見合せながら、ワンダァフル・ヴォイスとか何とか云つた。声だけは異人にもわかるのに違ひない。のみならずしをりの細かいことも小面こづらの憎い位である。
金春会の「隅田川」 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
如何いかにも人を食った、められようがくさされようが構わないと云った風な、度胸で舞っている感じがして、小面こづら憎くさえ思えるのであったが、でも考えれば、彼女は今年二十九と云う大年増で
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
小面こづらが憎いと思うけれど、こゝで喧嘩も出来ない。淫売屋というなかにも、こゝの家はよほどふうのわるい家で、大次郎の足どめに大小を隠してしまったらしい。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小面こづらの憎いわっぱめと、何か仕返しでもしてやりたいくらいに思ったが、そう苦り切っている間にすぐ
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
としずいわかけれどもきやくぶにめうありて、さのみは愛想あいさううれしがらせをふやうにもなくわがまゝ至極しごく振舞ふるまいすこ容貌きりよう自慢じまんかとおもへば小面こづらくいと蔭口かげぐちいふ朋輩はうばいもありけれど
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ああ、ああ、あめしたの色好みとか云はれるおれも、この位莫迦ばかにされれば世話はないな。それにしても侍従と云ふやつは、小面こづらの憎い女ぢやないか? 今にどうするか覚えてゐろよ。……」
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この俺を抜いて歩く奴、小面こづらの憎い振舞をしたものかな、よしそれならばこっちにも了簡りょうけんがあると、七兵衛は足に速力を加えて歩くと、見るまにまた銀ごしらえの脇差を追い抜いてしまいます。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「親分、ひと通りは調べて来ました。娘と駈け落ちした奴は良次郎といって、宿は浅草の今戸いまどだそうです。年は二十二で小面こづらののっぺりした野郎で、後家さんのお気に入りだったそうです」
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「案内にも立たず、勝手に会えとは、何たる非礼。小面こづらの憎い青二才め」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北原大輔きたはらだいすけ これは僕よりも二三歳の年長者なれども、如何いかにも小面こづらの憎い人物なり。さいはひにも僕と同業ならず。若し僕と同業ならん、僕はこの人の模倣もはうばかりするか、或はこの人を殺したくなるべし。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分の返事を鸚鵡おうむ返しにして、冷やかに笑っているような岡っ引の態度を、長三郎は小面こづらが憎いようにも思った。彼は何をか見付けたに相違ない。そうして、意地わるくかくしているのである。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
伊織は、何のわけか分らなかったが、仲間どもの小面こづらしゃくにさわって
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相手のおちついているのが、忠通には小面こづらが憎いように見えた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)