寿司すし)” の例文
旧字:壽司
それから暫くたった時、今日はうまい物を腹いっぱい食べてかねつかってしまってやろうと思った。寿司すしが第一に眼についた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
窓の下の市場は喧噪けんさうをきはめて、燈火がにぎやかに光り出した。ゆき子は一人で部屋を出て行つて、寿司すしと、カストリ酒をビールびん一本買つて来た。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
女に食べさすために口馴染くちなじみの祇園のいづ宇の寿司すしなどをわざわざ買いととのえて三条から大津行きの電車に乗った。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
かあさんは、おどろきなされたけれど、賢吉けんきちのいうようにしてくださいました。そして、おうちかえって、お弁当べんとうにお寿司すしを、こしらえてくだされたのです。
宿題 (新字新仮名) / 小川未明(著)
江戸橋へかけての眺め、広重が描いたままの風情ふぜいは、明治のころまで残っており、河岸の寿司すしの立ち食いから、一心太助の活躍した魚河岸はいまはない。
江戸の昔を偲ぶ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
よい材料を使う寿司すしは、高いのは当然だ。高価を呼ぶものにはそれぞれ理由がある。その理由をわきまえず、単に金高のみに拘泥こうでいして驚くのは野暮やぼである。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その窮屈の中へなお、火鉢と、みかんと、菓子と食卓と、弁当と、寿司すしと、酒とを押し込もうというのだ。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
実際この暑いのにこうお集まりになって竹の皮へ包んだ寿司すしのように押し合っていてはたまりますまい。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中央の休憩所には寿司すし、しるなどの店があって、赤い毛布の床几しょうぎなど総て公園の茶店式、それでも当時唯一の大百貨店として総てが目新しく、大人も子供も大喜び。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
千日前常盤座ときわざ横「寿司すし捨」の鉄火巻とたいの皮の酢味噌すみそ、その向い「だるまや」のかやくめしと粕じるなどで、いずれも銭のかからぬいわば下手げてもの料理ばかりであった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それは邂逅たまさかの事で、大方は下坐敷でお政を相手に無駄むだ口をたたき、或る時は花合せとかいうものを手中にろうして、如何いかがな真似をした上句あげく寿司すしなどを取寄せて奢散おごりちらす。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これをたとうれば、社会組織の善悪は寿司すしの押し方に巧拙あるがごときものである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
深夜、かさをさして、こっそり寿司すしを食いに出る。ひどく酔っぱらった女給と、酔ってない女給と二人、寿司をもぐもぐ食っていた。酔っぱらった女給は、僕に対して失敬な事を言った。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
女の子は赤い草履ぞうり、男の子は白い緒の草履、お弁当はみんな揃えてお寿司すしの折詰を学校からあつらえ、お菓子や飲料のみもののことまで世話人をめたところが、あいにくその日は朝から曇って
そうして彼女は杉箸すぎばしを裂き、一切れの寿司すしをつまむと
負けたものは何かおごらなければならないので、私は人の買った寿司すしや菓子をだいぶ食った。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ねえ、またお寿司すし買つて来ちやつた。お酒も、ほら、びんにいつぱい分けて貰つたのよ」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「まア昨日きのう帰ると思うていたのえ。お寿司すしこしらえといたの腐ってしもうた。」
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
月末になると、近所の蕎麦そば屋、寿司すし屋、小料理屋などから、かなり高額の勘定書がとどけられた。一家の空気は険悪になるばかりであった。このままでこの家庭が、平静に帰するわけはなかった。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そこへあつらえた寿司すしが来た。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
毘沙門びしゃもん提灯ちょうちんは年内に張りかえぬつもりか、色がめて暗いなかで揺れている。門前の屋台で職人が手拭てぬぐい半襷はんだすきにとって、しきりに寿司すしを握っている。露店の三馬さんまは光るほどに色が寒い。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
富岡も亦、女を抱いてゐながら、灰をつくつてゐるやうな淋しさで、時々手をのばしてはビールびんのカストリを、小さい硝子のさかづきにあけてはあほつた。時々、ゆき子も一息いれては、寿司すしをつまんだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
二人は二人の月給を机の上にごちゃごちゃにぜて、そのうちから二十五銭の月謝と、二円の食料と、それから湯銭若干そくばくを引いて、あまる金をふところに入れて、蕎麦そば汁粉しるこ寿司すしを食い廻って歩いた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寿司すしば食いとうなるけに、見とうはなか……」
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)