寡婦ごけ)” の例文
それに不思議な事には、寡婦ごけさんに耳を引張られると、国士どころか、何だか自分が鍋か兎ででもあるやうな気がする事だつた。
未だうら若い寡婦ごけさんで——尤も僕よりは一つ方姉さんでしたが——健康そうな肉体を持った相当美しい女であったので
象牙の牌 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
年はまだせいぜい三十三、四だが、もう五年ばかりも前から寡婦ごけになっている。十四になる娘は足痛風を患っていた。
彼が急に起き上って「若寡婦ごけの墓参り」という歌をうたいながら酒屋へ行った。この時こそ彼は趙太爺よりも一段うわ手の人物に成り済ましていたのだ。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
可哀想な寡婦ごけさんが胸も潰れる思いをしながら、貧苦にあえいでいる有様を見かねてさ……。
四十を越した、神経質な寡婦ごけが、子供をつれ、大切なものまで抱えておびえてあがるのに対して、私は、それは私もこわい、かかり合のかかり合になるのは迷惑だといえるだろうか。
田舎風なヒューモレスク (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
しなはゝ百姓ひやくしやうとしては格別かくべつはたらきをたなかつたから、寡婦ごけとして獨立どくりつしてくには非常ひじやう困難こんなんでなければらぬだけ身體からだ何處どこにかやはらかな容子ようすがあつて、清潔好きれいずき卯平うへいこゝろいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今度はにしんを買おうと思って、寡婦ごけさんのところへ行って金貨を出すと
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
人生の單調と孤獨とをはやくから教へた無愛想な死面しめん寡婦ごけである。
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
牧師は慌ててステツキ引込ひつこめた。ステツキといふのは、さる富豪ものもち寡婦ごけさんが贈つて来たもので、匂ひの高い木に金金具きんかなぐが贅沢に打ちつけてあつた。
「わたくしは寡婦ごけになって三年になります」女はぶるぶると身を震わすようにしながら、ささやき声でこう言った。
おれは誰ひとり他人を不幸にした覚えがない。寡婦ごけのものをふんだくったこともなければ、人を破産させたこともない。おれはただ有り余った上のおあまりを頂戴しただけのことだ。
それでも幼兒えうじぬのはかさだからといふのみで病毒びやうどく慘害さんがいはずもなくしたがつておそれるはずもなかつた。おしなはゝ非常ひじやう貧乏びんばふ寡婦ごけで、あしつかたぬのおしなふところにして悲慘みじめ生活せいくわつをしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
少し馴染が重なつて来ると、寡婦ごけさんは時々妙な事をし出した。それは会話はなしの途中で一寸中野氏の耳を引張る事なのだ。
寡婦ごけで、世事にはうとい女のことでございますもの、あんたさん、正直なところ、ちっとも訳の分らない、ああいうことで妾を騙かすのは、そりゃもう朝飯まえのことでござんすよ。
「酒かい。」徳蔵氏は寡婦ごけさんのやうな悲しさうな声をした。「酒もこの頃では余りやらん事に決めとるよ、まあさかづきに五六杯といふところかな。」
なにせ妾は寡婦ごけのことで、死んだ農奴が一体どのくらいの相場やら、とんと知らないのでございますよ。なあ、お前さま、どうか、せめてのことに、正真正銘の値段だけでも聴かせておくんなんしょ。
爺さんは、寡婦ごけさんのすげない返事が悲しいと言つて、心の臓が干葡萄のやうにしなびるまで悄気しよげきつてゐたが、とうと身体からだを悪くして死んでしまつた。
「なにせ妾は、世間知らずの寡婦ごけのことだからね! いっそ、もう少し待ってみますわい、ひょっとしたら、もっと他の商人あきんどがやって来るかもしれませんからもう一度値をあたってみることにして。」
その次ぎの日も、寡婦ごけさんは談話はなしがはずむと、ひよいと手を延ばして厭といふ程中野氏の耳を引張つた。国士は顔をゆがめながら、いきなり衝立つゝたち上つた。
「十等官の寡婦ごけで、コローボチカといいますんで。」
してみると、氏が若い寡婦ごけさんを、後妻に貰つたのは、経済の立場から見ても聞違つた事ではなかつた。
二人はこんな事で若い寡婦ごけを嬉しがらせる事なら、自分達の顔一杯楽書らくがきをしても苦しくないと思つた。
「添田など何だつてあんなに意気地が無いんだらう。鳩山の寡婦ごけに口説き落されるなんて。」
最近匈牙利ハンガリーのブダペストで珍しい事件があつた。それはある寡婦ごけさんが自分に結婚を申し込んだ男を拒絶はねつけたから起きた事なので、男は当年取つて八十九歳の爺さんだつた。
欧羅巴ヨーロツパ戦争は、交戦国に寡婦ごけさんをたんとこしらへたやうに、日本には成金をたんと生み出して呉れた。寡婦ごけさんと成金と、どちらも新生活の翹望者げうばうしやたる点において同じである。
「やあ、那処あすこにいつもの両替りやうかへ屋の寡婦ごけが見える。」