大巌おおいわ)” の例文
旧字:大巖
刀は抜けてうみに沈んで、小刀しょうとうばかり帯に残つたが、したくがに成つた時、砂浜のなぎさに少年を落して、鷲は目の上の絶壁の大巌おおいわに翼を休めた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まもなく行手ゆくてに一個の城のような建物を見た。それは大巌おおいわの岬の上に建ててある。少年はその大巌の上にやっとのぼりついた。その城の門にはフレオッセと書いてあった。
大地に根を下ろした大巌おおいわのように一種の威容を見せて来た。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
真蒼まっさお水底みなそこへ、黒くいて、底は知れず、目前めさき押被おっかぶさった大巌おおいわはらへ、ぴたりと船が吸寄すいよせられた。岸は可恐おそろしく水は深い。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大巌おおいわの一枚戸のような奴がまた恐しくすべりが良くって、発奮はずみかかって、がらん、からから山鳴り震動、カーンとこだまを返すんです。ぎょっとしました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背後うしろうねって切出したような大巌おおいわが二ツ三ツ四ツと並んで、上の方へかさなってその背後へ通じているが、わしが見当をつけて、心組こころぐんだのはこっちではないので
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
崖づくりを急流で落ちます、大巌おおいわの向うの置石おきいしに、竹のといあやつって、添水そうず——僧都そうずを一つ掛けました。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大巌おおいわの岸へ着くと、その鎌首で、親仁の頭をドンとたたいて、(お先へ。)だってよ、べろりと赤い舌を出して笑って谷へ隠れた。山路はぞろぞろと皆、お祭礼まつりの茸だね。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紅蓮こうれん一茎ひとえだ白蓮華びゃくれんげの咲いた枯田かれたのへりに、何の草か、幻の露の秋草のあぜを前にして、崖の大巌おおいわに抱かれたように、巌窟いわむろこもったように、悄乎しょんぼりと一人、淡くたたずんだおんなを見ました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奥の大巌おおいわの中腹に、祠が立って、うやうやしくいつき祭った神像は、大深秘で、軽々しく拝まれない——だから、参った処で、そのかいはあるまい……とくのを留めたそうな口吻くちぶりであった。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大巌おおいわの崖が薄黒く、目の前へ蔽被おっかぶさって、物凄ものすごうもなりましたので、ふんどしめ直すやら、膝小僧ひざっこぞうを合わせるやら、お船頭が、ほういほうい、と鳥のような懸声で、浜へ船をつけまして
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真中にまず鰐鮫わにざめが口をあいたような先のとがった黒い大巌おおいわ突出つきでていると、上から流れて来るさっとの早い谷川が、これに当ってふたつわかれて、およそ四丈ばかりの滝になってどっと落ちて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庭の正面がすぐに切立きったての崖で、ありのままの雑木林に萩つつじの株、もみじを交ぜて、片隅なる山笹の中を、細くうねり蜿り自然の大巌おおいわを削ったこみちが通じて、高くこずえあがった処に、建出しの二階、三階。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瑪瑙めのうの如き大巌おおいわたたへた温泉いでゆに白く浮いて居た。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)