堂宇どうう)” の例文
霊屋おたまやのそばにはまだ妙解寺みょうげじは出来ていぬが、向陽院という堂宇どううが立って、そこに妙解院殿の位牌いはいが安置せられ、鏡首座きょうしゅざという僧が住持している。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この堂宇どううの内に納めてある洞白の仮面めん箱を盗み返し、離れの密室にいる馬春堂を助け出して、この高麗こま村におさらばを告げる方寸と見えました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし粛然たる静謐せいひつな空気が全堂宇どううちわたり、これこそ彼が願望したすべてであったとう印象を消し難く残した
ロード・ラザフォード (新字新仮名) / 石原純(著)
また徳川初期の清妙芳麗な工芸の神技を発揮しているものに、台徳院本殿内に安置した堂宇どううと、奥院の宝塔とがある。
増上寺物語 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
徳川三代将軍家光の牟礼野田猟むれのかりの時、御殿山に休息して池の泉にかついやしてから、弁財天べんざいてん堂宇どううも立派にされました。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
二 上野黒竜山不動寺は、山深く嶮岨けんそにして、堂宇どうう其間に在り。魔所と言ひ伝へて怪異甚だ多し。山のぬしとて山大人と云ふものあり。一年に二三度は寺の者之を見る。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして供物や供米くまいを権現堂にそなえてゆくばかりでなく、人々は、荒廃した堂宇どううに、多くの天狗の額を奉納した。それは土人形のような天狗の面を形作った額面だった。
天狗 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
柴又しばまた帝釈天たいしゃくてん境内けいだいに来た時、彼らは平凡な堂宇どううを、義理に拝ませられたような顔をしてすぐ門を出た。そうして二人共汽車を利用してすぐ東京へ帰ろうという気を起した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
聖徳太子が自ら刻んだという如意輪にょいりん観音の像だけは、寺院の近くに、今にその堂宇どううを残しているのであるが、最近、それが聖徳太子の作ではなく運慶うんけいの作であることが鑑定され
荒雄川のほとり (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
華表とりいの形や社殿しゃでんの様式も寺の堂宇どうう鐘楼しょうろうを見る時のような絵画的感興をもよおさない。いずこの神社を見ても鳥居を前にした社殿の階前にはきまって石の狛犬こまいぬが二つ向合いに置かれている。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すなはち京都四条坊門しじょうぼうもんに四町四方の地を寄進なつて、南蛮寺の建立を差許さるる。堂宇どうう七宝しっぽう瓔珞ようらく金襴きんらんはたにしき天蓋てんがいに荘厳をつくし、六十一種の名香は門外にあふれて行人こうじんの鼻をば打つ。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
その一つの小高みに閑雅かんがな古典的の堂宇どうう隠見いんけんする。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そこには、後嵯峨ごさが法皇のご祈願所、称名寺があった。堂宇どうう十四坊。まず申し分ない宿営の地といっていい。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は、立ってれいの光る小さい堂宇どううの前へ行った。そして細い一本の草のような烟るものに火をけた。かれらは、かれらの生んだものを慕うそれにふさわしい、小さいお鉦鼓かねを叩いた。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
伝来の宝物も、仏具調度の七珍八宝も、ことごとく堂宇どううのうちにのこしたままであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
静かなはいが中でうごく。やがて御堂のの隙間に明りがさした。絶えて人など住んでいたためしのない堂宇どううなので、しとみは破れ、すすや雨漏りの荒れもひどいのに、誰が寝泊りなどしているのだろうか。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを眺めて、急に休みたくなりましたが、横手の堂宇どううを見ると、そこのひさしの日蔭には、羅漢のような雲助と西瓜すいかの食べ散らしたからが、はえを集めて昼寝をしているので、近くに休む気にもなりません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれに、古い堂宇どううが見えまするが」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)