地下じげ)” の例文
徳政とやら申すいまわしい沙汰さたも義政公御治世に十三度まで行われて、倉方も地下じげ方もことごとく絶え果てるばかりでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
四民同等の今日とて地下じげ雲上うんじょう等差ちがい口惜し、珠運をやすく見積って何百円にもあれ何万円にもあれさつで唇にかすがい膏打こううつような処置、遺恨千万
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
地下じげの一野人を、こう近々と召されるさえ、時なればこそである。のみならず、簾を捲かせて、えつを与え給うなどは、殿上にはない破格だった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
容易なことでは大奥などへは、地下じげの女ははいれないが、そこは田沼がついている。忍び込ませたに相違ない。だがしかし不思議だなあ。突然消えたというのだから
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こういう大将は、地下じげの分限者、町人などにうまく付けこまれる。やがて、家風が町人化し、口前くちまえのうまい、利をもって人々を味方につける人が、はばを利かしてくる。
地下じげの百姓を見てもすぐと理屈でやり込めるところから敬して遠ざけられ、狭い田のくろでこの先生に出あう者はまず一丁さきからけてそのお通りを待っているという次第
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
楽人は殿上役人からも地下じげからもすぐれた技倆を認められている人たちだけがり整えられたのである。参議が二人、それから左衛門督さえもんのかみ、右衛門督が左右の楽を監督した。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
殿上人てんじようびと地下じげも庶民も、全てがそれを希んでゐる、と。そして彼は安心しきつてゐる。信じきつてゐる。人々の総意により自然に天皇になつてしまふ、されてしまふ、と。
道鏡 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
あれは尾上と申す女房ですから地下じげへ下す訳には行かないが、その男を此方こちらへ寄越して下さいと云うお文があって、それを御所から私の宿へわざ/\届けて下すったのです。
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
申す百姓かな、八幡聞かまじきとは思えども、七生よりこのかた六になきは地下じげの習い、ごくもんに懸るかしばりて腹をいんと思えども、さんりんに隠れぬれば、にくき仕方を
今学習院は学職方は公家なり、儒官は菅清家と地下じげの学者と混じて相務められ、定日ありて講釈これ有り。この日は町人百姓まで聴聞に出で候事勝手次第、勿論堂上どうじょう方御出坐なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「聞けば独り寝の別れの歌を披露しようとて参ったとか。堂上どうじょうでも地下じげでも身分は論ぜぬ。ただい歌を奉ればよいのじゃ。名は藻とか聞いたが、父母ちちはははいずこの何という者じゃな」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
所詮地下じげの軽輩の眼には位負けがする、そうでなければ、仕事の都合上、持ち上げて置いて利用する程度のものにしか考えられなかった、岩倉とて何ほどのことがあろうと、あの瞬間に
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
炉をくことの少い此辺では、地下じげ百姓は、夜は真暗な中で、寝たり、坐ったりしているのだ。でもここには、本尊がまつってあった。夜を守って、仏の前で起き明す為には、御灯みあかしを照した。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
やはりおもただしいことが大切で、歌会なども思うままにというわけには行かず、当時の新派の歌人は多く地下じげの人で、内裏の昇殿は許されてもいず、九条家や土御門家などに集っているだけで
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
「きさまは、地下じげ浪人じゃな、俺の家の嫁をどうしようと云うのじゃ」
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
徳政とやら申すいまはしい沙汰さたも義政公御治世に十三度まで行はれて、倉方も地下じげ方もことごとく絶え果てるばかりでございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
男の宰相頼定も、これがたたって、三条天皇の治世中は、殿上を遠ざけられ、半生、地下じげ上達部かんだちべというばつの悪い地位にくすぶっていたようである。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殿上人でんじょうびと地下じげも庶民も、全てがそれを希んでいる、と。そして彼は安心しきっている。信じきっている。人々の総意により自然に天皇になってしまう、されてしまう、と。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一、小林民部いう、京師の学習院は定日ありて、百姓町人に至るまで出席して講釈を聴聞することを許さる、講日には公卿方出坐にて、講師菅家、清家及び地下じげの儒者相混ずるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
容貌きりょうといい、手蹟しゅせきといい、これほどの乙女が地下じげの者のたねであろう筈がない。あるいは然るべき人の姫ともあろう者が、このようないたずらをしてきょうじているのか。但しは鬼か狐か狸か。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
周囲もまたそれを侮りともさげすみとも思っていないという麻痺まひした習慣のせいだとばかり思っていた黒羽二重は、ここに至って、そうでない、わざと地下じげへうつして、むしろの上から聞くことが
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
地下じげの詩人はまして、帝も東宮も詩のよい作家で、またよい批評家でおありになったし、そのほかにもすぐれた詩才のある官人の多い時代であったから、恥ずかしくて、清い広庭に出て行くことが
源氏物語:08 花宴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
地下じげの召し人の歌よみが、おれの三十になったばかりの頃、「昔見しふるき堤は、年深み……年深み、池のなぎさに、水草みくさ生ひにけり」とよんだ位だが、其後が、これ此様に、四流にもわかれて栄えている。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「そうです、今では、地下じげ一般のふうが、世の世直しを、一日も早くと、待ち望んでいるような」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしは来年は男になって、烏帽子折りの商売あきないをするのじゃ。わしが腕かぎり働いたら、お前たち親子の暮らしには事欠かすまい。宮仕えなどして何になる。結局は地下じげで暮らすのが安楽じゃ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)