うわ)” の例文
笠原は別に何もしていなかったのだが、商会では赤いといううわさがあった。それで主任が保証人である下宿の主人のところに訪ねてきた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
たとえて申しましょうなら、御本宅や御親類ははちの巣です。其処へ旦那様が石を投げたのですから、奉公人の私まで痛いうわさに刺されました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
場所が場所であるし、赤外線男のうわさの高い折柄おりからでもあったので、ただちに幾野いくの捜査課長、雁金かりがね検事、中河予審判事なかがわよしんはんじ等、係官一行が急行した。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
フランシスが狂気になったといううわさも、父から勘当を受けて乞食の群に加わったという風聞も、クララの乙女心を不思議に強く打って響いた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そうしたうわさがどこからともなく流れて来た。二人が立ち話をしていたのを、一度巡回の看守長が遠くから見て担当看守に注意をしたことがあったのである。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
お城下の蘭医派らんいはの菊坂長政は、それを一種の病毒不明の、しかしながら何等かの犬畜に犯されたらしい診断をしただけ、別に取り立ててうわさするものがなかった。
天狗 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「ああら、玉子とは丸いものかや。わらわは初めて拝見しまする」と、下情に通じさせながら、毎月のお買上げ金二万円也も、可成かなり古いおうわさであるが、——その先祖以来
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
ハワイに行ったともいい、南米に行ったともうわさせられたが、実際のことは誰も知らなかった。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「今朝もおうわさを致して居りましたところです。こんなによくおなりになろうとは実に思いけがなかったのです。まだそれでもお足がすこしよろよろしているようですが。」
初夢 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
甚三が夜のうちに逐電ちくてんしたと云ううわさが聞え出して笛の音は一時、ばったりと絶えた。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
このような身代の身に引き受きょうとは、ちとえら過ぎると連れ添うわたしでさえ思うものを、他人はなんとうわさするであろう、ましてや親方様は定めし憎いのっそりめと怒ってござろう
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
……男女間の風紀などもとかくみだれがちで、いろいろといやなうわさが多かった。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
人のうわさでは過日国立博物館で脇本楽之軒の講演があった時、その中でも「柳さんは昭和の利休とでもいうべき人だ」と話されたそうである。実はこれまでも時折そういう讃辞をうけたことがある。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それはぬしのないスリッパーにそそのかされた罪かも知れなかった。けれどもスリッパーがなぜ彼を唆のかしたかというと、寝起ねおきに横浜の女と番頭のうわさにのぼった清子の消息をかされたからであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家々のどの軒にも、昨夜の事件がうわさされている心地だった。
撞球室の七人 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
彼の片頬かたほほには見るも恐ろしいかにのような形をした黒痣くろあざがアリアリと浮きでていた。これこそうわさに名の高い兇賊きょうぞく痣蟹仙斎あざがにせんさいであると知られた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はなはだ唐突ながら一筆申上そうろう……かねてより御うわさ、蔭ながら承り居り候。さて、未だ御目にかからずとは申しながら腹蔵なく思うところを書き記し候。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
倉田工業は、臨時工の若干を本工に直すかも知れないといううわさで、最後のピッチを挙げていた。私たちはそれにそなえるために、細胞の再編成をやることにした。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
かの女は、華美でも洗練されてるし、我儘わがままでも卒直そっちょくな戸崎夫人のうわさは不愉快ふゆかいでなかった。そういう甲野氏もひがやすいに似ず、ずかずか言われる戸崎夫人をちょいちょいたずねるらしかった。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「婆さんもね、早く孫の顔を見たいなんて、日常しょっちゅうそのうわさばかりさ。どうだね、……未だそんな模様は無いのかい」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
十円を出すといううわさを立てさせているのには、明らかに会社側の策略がひそんでいるのだ。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「うん、判ったぞオ。これは怪力線かいりょくせんに違いない。うわさに聞いた怪力線の出現。ああ、そうだ。紙洗大尉の奴、井筒副長から何か言われてたっけが、あれが『天佑てんゆう』の正体しょうたいなんだな」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と電話に出てみると、むこうはうわさのぬしの覆面の探偵青竜王からだった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その後亜米利加アメリカ産の浅間号という名高い種馬も入込みました。それから次第に馬匹の改良が始まる、野辺山のべやまが原の馬市は一年増に盛んに成る、そのうわさがそれがしの宮殿下の御耳まで届くように成りました。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これだけの大した身なりの婦人で、引取人の無いのは不思議千万せんばんだと署員がうわさし合っているところへ、待ちに待った引取人が現れた。それは轢死後れきしご丁度ちょうど十四時間ほど経った其の日の真夜中だった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「全然素人しろうとじゃないといううわさもありましたが……」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)