刻煙草きざみたばこ)” の例文
正木大尉は舶来はくらい刻煙草きざみたばこを巻きに来ることもあるが、以前のようにはあまり話し込まない。幹事室の方に籠って、暇さえあれば独りで手習をした。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その手に一条の竹のむちを取って、バタバタと叩いて、三州は岡崎、備後びんごは尾ノ道、肥後ひごは熊本の刻煙草きざみたばこ指示さししめす……
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その夜茂作は、長い竹のきせるに、どつさりと刻煙草きざみたばこをつめこんで、箒星のお姫さまの通るのをまち構へました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
私が下谷大門町へ連れて来て貰い乳して丹精して育てたのさ、手前てめえ親父おやじ母親おふくろは小さいうち死んで、おれが育てたと云って、刻煙草きざみたばこをする中で丹精して
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
煙草はたしか「極上国分ごくじょうこくぶ」と赤字を粗末な木版で刷った紙袋入りの刻煙草きざみたばこであったが、勿論国分できざんだのではなくて近所の煙草屋できざんだものである。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
子爵ははかまを着けて据わって、刻煙草きざみたばこ煙管きせるで飲んでいたが、せた顔の目の縁に、しわを沢山寄せて、嬉しげに息子をじっと見て、只一言「どうだ」と云った。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
うしなひしかば是非なく今は麻布原町あざぶはらまち刻煙草きざみたばこの小店を出し其身そのみは日々糶賣せりうりをして女房に店はまか漸々やう/\其日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
青い刻煙草きざみたばこの吸殻のような光があった。それは根笹ねざさ葉裏はうらに笹の葉の繊維をはっきり見せていた。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さっきの雨が既にあがっているので遍路は茣蓙ござを敷いてそのうえで刻煙草きざみたばこを吸っていた。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼がオスロかどこか北方の首府に仕事と地位を持っている希臘ギリシャの若い海軍武官であることも、いつも小さなはかりを携帯していて、それで注意深くフィリップ・モウリスの上等の刻煙草きざみたばこを計って
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
權治はあわてゝ下男部屋へ飛込むと、五匁玉の刻煙草きざみたばこを持つて來たのです。
大森氏は同じ主義から、どんな酷暑の候でも、官吏は簡単な服装をしてはならないといふので、洋服のぼたん一つ外した事がない。この意味から詰襟などは巻煙草シガレツト刻煙草きざみたばこと一緒に大嫌ひである。
刻煙草きざみたばこの部で『砂掃き工場』の第二工場が彼女の職場で、『葉撰部』から入ってくる『原料』を機械にかけて『霧吹部』へ廻し、それから『截刻部』の方へまわってゆくのだ、くらいのものだった。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
彼はいつも和服——特に浴衣ゆかたを好んだ——を着、たたみの上に正坐せいざし、日本の煙管きせる刻煙草きざみたばこめて吸ってた。食事も米の飯に味噌汁みそしる、野菜の漬物つけもの煮魚にざかなを食い、夜は二三合の日本酒を晩酌ばんしゃくにたしなんだ。
今度は腰から煤竹筒すすだけづつの汚ない煙草入を出して、その蝋燭の火で美味おいしそうに何服も何服も刻煙草きざみたばこを吸うのであったが、まだ発車していないので、荷物なんかを抱えて通抜けようとする奴なんかが在ると
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
床の脇にある火鉢の裾に刻煙草きざみたばこの袋と煙管きせるとが見えている。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
と七兵衛は、刻煙草きざみたばこ国分こくぶをつめ換えて
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さつきの雨が既にあがつてゐるので遍路は茣蓙ござを敷いてそのうへで刻煙草きざみたばこを吸つてゐた。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
正木大尉は正木大尉で強い香のする刻煙草きざみたばこを巻きながら、よく「軍隊に居た時分」を持ち出す。時には、音吉が鈴を振鳴しても、まだ皆な火鉢の側に話し込むという風であった。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
根白こんぱくというところで煙草を買おうと思ったが、巻莨まきたばこはおろか刻煙草きざみたばこもない。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)