其形そのかたち)” の例文
敵は髪を長く垂れた十五六の少年で、手にはきらめく洋刃ないふのようなものを振翳ふりかざしていた。薄闇で其形そのかたちくも見えぬが、人に似て人らしく無い。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
およそ天よりかたちしてくだものあめゆきあられみぞれひようなり。つゆ地気ちき粒珠りふしゆするところしもは地気の凝結ぎようけつする所、冷気れいき強弱つよきよわきによりて其形そのかたちことにするのみ。
が、砂地すなぢ引上ひきあげてある難破船なんぱせんの、わづかに其形そのかたちとゞめてる、三十こくづみ見覺みおぼえのある、ふなばたにかゝつて、五寸釘ごすんくぎをヒヤ/\とつかんで、また身震みぶるひをした。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三 高田の大工だいく又兵衛と云ふ者、西山本に雇はれありしが、一夜急用ありて一人山道を還りしに、岨路そばみちの引廻りたる処にて図らずも大人に行逢ゆきあひたり。其形そのかたち裸身にして、長は八尺ばかり、髪肩に垂れ。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
其形そのかたちひとしからざるは、かの冷際れいさいに於て雪となる時冷際の気運きうんひとしからざるゆゑ、雪のかたちおうじておなじからざる也。
更に人をおどろかしたのは、の山𤢖の最期であった。幾百年の昔から、口でこそ山𤢖と云うけれども、誰も明白あきらか其形そのかたちを認め得た者は無かった。しかるに今や白昼にの怪しき形骸をさらしたのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山半やまのなかば老樹らうじゆえだをつらねなかばより上は岩石がんぜき畳々でふ/\として其形そのかたち竜躍りようをどり虎怒とらいかるがごとく奇々怪々きゝくわい/\いふべからず。ふもとの左右に渓川たにがはありがつしてたきをなす、絶景ぜつけいいふべからず。ひでりの時此滝壺たきつぼあまこひすればかならずしるしあり。