八重やへ)” の例文
おりたつ後姿うしろすがた見送みおくものはお八重やへのみならず優子いうこ部屋へや障子しようじ細目ほそめけてはれぬ心〻こゝろ/\を三らう一人ひとりすゞしげに行々ゆく/\ぎんずるからうたきゝたし
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
税関吏は鞄の中は見なかつた。私が心配しながら通つた波蘭ポオランドから掛けて独逸ドイツの野は赤い八重やへ桜の盛りであつた。一重ひとへのはもう皆散つたあとである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
八月の藤の花は年代記ものである。そればかりではない。後架こうかの窓から裏庭を見ると、八重やへ山吹やまぶきも花をつけてゐる。
『あゝ、まだ蟲ア啼いてる!』とお八重やへは少し顏をゆがめて、後れ毛を掻上げる。遠く近くで戸を開ける音が聞える。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
去年こぞ九重こゝのへの雲に見し秋の月を、八重やへ汐路しほぢ打眺うちながめつ、覺束なくも明かし暮らせし壽永二年。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ここにその后名は弟橘おとたちばな比賣の命の白したまはく、「妾、御子にかはりて海に入らむ。御子は遣さえし政遂げて、覆奏かへりごとまをしたまはね」とまをして、海に入らむとする時に、菅疊すがだたみ八重やへ皮疊かはだたみ八重やへ
ひんがしのの白かべに八重やへざくら淋漓りんりと花のかげうつしたり
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
日は見えず八重やへの雲路に
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
不審いぶかしゝそれほどまでに御嫌おきらひになるほどならやさしげな御詞おことばなぜおほせおかれけん八重やへおもふもはづかしきまでときうれしかりしを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
絁疊きぬだたみ八重やへを波の上に敷きて一〇、その上に下りましき一一
や/\それは八重やへらねばぞ杉原すぎはらさまはそのやうな柔弱にうじやく放垨はうらつなおひとければ申してからが心配しんぱいなり不埒者ふらちものいたづらもの御怒おいかりにならばなんとせん
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)