仲居なかい)” の例文
と、縁のすみへ出て行ったと思うと、仲居なかいの赤い前だれを、頭のうしろに結び、そのひもへ、梅の花をさし、ほうきをかついで
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その女は以前島の料理屋で仲居なかいをしていたんだが、その女と仲よくなったために、そのかん島におれない事情ができて
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
この笑い声を聞くと同時に、船の中で「キャ——ッ」という弱々しい叫びが起って、一人の仲居なかいが引っくり返った。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「なあに、そんなに大変な事もないんです。登場の人物は御客と、船頭と、花魁おいらん仲居なかい遣手やりて見番けんばんだけですから」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それで叱るか。よい、そんならお前が叱られぬように、おれが仲居なかいを呼んでよく話してやる。心配するな」
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「今晩は」「今晩は」と大きな声でいうてるうちにやっとのことで仲居なかいさんが出て来まして、顔見るなりこっちがなんにもいわん先にちゃんと心得てる様子で
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
仲居なかいと舞子に囲繞とりまかれつつ歓楽に興ずる一団を中心として幾多の遠近おちこちの涼み台の群れを模糊もことして描き、京の夏の夜の夢のような歓楽のやわらかい気分を全幅にみなぎらしておる。
前の柳北時代の柳橋の老妓のようなのが(多分、仲居なかいの功労を経たものであろう)
そこでは「ぼんぼん、ええもの買うてあげまよ」といって芸妓げいぎ仲居なかいが私を暫くの間、芝居裏の細道をうろうろと何かなしにつれて歩くのだ。そして何か一つ玩具おもちゃを買ってもらう訳だった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
翻える暖簾のれんに掛け行燈、出たりはいったりする仲居なかい曳子ひきこ、ぞめいて通る素見客ひやかしきゃく、三味線の音色、唄う声、——遊女屋にまじって蔭間茶屋、市川桝之丞、浅尾庄松、かどにこんな名が記されてある。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十九のお雪に、小野亭の仲居なかいがささやいた。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ちょうには、仲居なかいか、芸子か、とにかく送って来た女らしいのが、門にははいらずに、見届けて、そのまま空駕籠といっしょに、引っ返して行った。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「奥さん奥さん」いうてあわてて仲居なかいさんがけ上って来て、「今奥さんの旦那さんがお見えになって、お二人さんに会いたいいうたはります。どないしまひょ」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その時仲居なかいは「高林先生」とか「若先生」とか云って無暗むやみにチヤホヤした。私は気になって「本当の名前は久弥」と云ったら「それでは御苗字は」ときいたから
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「よい。そんならおれがお前を相方にする。そうして、勝手に帰してやる。仲居なかいを呼べ」
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
所が此小坊主がどうしたとか、こうしたとか云うよりも祇園ぎおんの茶屋で歌をうたったり、酒を飲んだり、仲居なかい前垂まえだれを掛けて居たり、舞子が京都風に帯を結んで居たりするのが眼につく。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは芝居に出てくる万のに似た仲居なかい年増としま
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
手持ち無沙汰に坐っていた仲居なかい
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
薄暗い出合茶屋の店先では、奥の客を忘れたように、老婆としより仲居なかいと小女が、帳場箪笥ちょうばだんすによりかかって居眠りしていた。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何がさて明治もまだ中途半端はんぱ頃の血腥ちなまぐさい時代の事とて、何かと騒動初まらねばよいがと、仲居なかい芸妓げいぎ連中が心も空にサービスをやっているうちに果せるかな始まった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それに、奇異なことは、あの近代娘らしいところが全然なくなって、茶屋か料理屋の、———しかも余り上等でない曖昧あいまい茶屋か何かの仲居なかい、と云ったようなところが出ていた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この間に、かけている用事へ抜け出す仲居なかいもある。ほかの者に囁いて、そっと他の座敷へかくれるおんなもあった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに乗込んだ一行五十余名と一所いっしょに、地元の釜山はいうに及ばず、東莱とうらい馬山ばさんから狩り集めた、芸妓げいしゃ、お酌、仲居なかいの類いが十四五名入り交って足の踏む処もない……皆
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼処あそこは私初めてですねんけど、宝塚と同じような家族温泉や何やあって、光子さんはちょいちょい行きなさると見えて、仲居なかいさんの名アやら、中の勝手やら、よう知ってなさるのんです。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
巡査の握りこぶしの上に芸者のお尻がノシかかって来る。仲居なかいの股倉が有志の肩に馬乗りになる。「降りちゃ不可いかん降りちゃ不可ん」と下から怒鳴っているんだからたまらない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
祇園ぎおんあたりの仲居なかいであろうか、なりをすかさぬ年増たちが、駕をのぞいてこういった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仲居なかいと、竹之丞と、そして升屋の提灯が一つ、彼の影を囲んで
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああそうだよ。おっと仲居なかいさん。案内には及ばねえ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)