人様ひとさま)” の例文
旧字:人樣
わたくしは、もう人形使にんぎょうつかいをやめまして、故郷こきょうかえるつもりでおりました。この人形も、もう人様ひとさまにお目にかけないつもりでおりました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
どっちの場合も、人様ひとさまのおかげをもって、どえらい傍杖的そばづえてき被害をくらおそれが十分に看取かんしゅされたものだから、どうして落付いていられようか。
山田次郎吉やまだじろきちは六十を越しても、まだ人様ひとさまのゐられる前でへどを吐くほど耄碌まうろくはしませぬ。どうか車を一台お呼び下さい。」
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「一体あの甘木さんが悪うございますよ、あんまり三毛を馬鹿にし過ぎまさあね」「そう人様ひとさまの事を悪く云うものではない。これも寿命じゅみょうだから」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これこれ、んでそんな頓狂とんきょうこえすんだ。いくらあめなかでも、人様ひとさまかれたらことじゃァないか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
人様ひとさま御迷惑。蚊柱のように唸るんでございますもの、そんな湯呑には孑孑ぼうふらが居ると不可いけません。お打棄うっちゃりなさいましよ。唯今、別のを汲替とりかえて差上げますから。」と片手をついて立構たちがまえす。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さぞ御立腹な訳でございましょう、仮令たとえどのような事がありましても人様ひとさまの御家内を打擲ちょうちゃくするとはけしからん訳でございます、若年の折柄おりから人様に手を掛ける事が度々たび/\ありまして意見もしましたが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いゝえ、わがままだとばかりお思いになっては困ります。わたしは御承知のような生まれでございますし、これまでもたびたび御心配かけて来ておりますから、人様ひとさま同様に見ていただこうとはこれっぱかりも思ってはおりません」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
有難ありがとうはござんすが、おやませるおくすり人様ひとさまにおねがもうしましては、お稲荷様いなりさまばちあたります」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「何の演説をやるつもりでござんしょう。そんな事をやるとまた人様ひとさまに御迷惑がかかりましょうね」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……そして、人様ひとさまのおすすめによりまして、この人形を、ターコール僧正そうじょうさまのおいのりで生きあがったこの人形を、さいごに一だけ、みな様にお目にかけることにいたしました……
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
りかかるはなしじゃねえ。どうせ人様ひとさまのことだとおもって、だまっていてりやしたが。——もし堺屋さかいやさんのおかみさん、つまらねえきもちは、かねえほうがようがすぜ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)