万々ばんばん)” の例文
旧字:萬々
よってかの家を彩牋堂とこじつけ候へども元より文藻ぶんそうに乏しき拙者せっしゃ出鱈目でたらめ何かき名も御座候はゞ御示教願はしく万々ばんばん面叙めんじょを期し申候
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
逃げ去る恐れは万々ばんばんないけれど、余の帰った事を知らざるに如くは無いと、余は此の様な考えで、下僕に前の通り差し図したが
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
それは万々ばんばん知っている筈の外記がなぜ卑怯に隠し立てをするのか、それが憎いほどに怨めしかった。今となって男の心が疑わしくもなった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
共に祖先の口碑こうひをともにして、旧藩社会、別に一種の好情帯を生じ、その功能こうのうは学校教育の成跡せいせきにも万々ばんばんおとることなかるべし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
遠州流でも古流でも池の坊でもその一流にって清楚せいそなる花を食卓へ飾ったら葬式の造花然つくりばなぜんたるこの掴み挿しに勝る事万々ばんばんだ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
御尋ねの場面は、京都四条しじょう通りです。撮影日附は八月二十三日です。これは撮影日記によって御答えするのですから、万々ばんばん間違いはありません。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「どうしたか、わかりません。が、事によると、——まあそれもあの人の事だから、万々ばんばん大丈夫だろうと思いますがな。」
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この分類は正確なところだと思う。僕の観察には、万々ばんばんあやまりは無いつもりである。天才的な人間は、ひとりも見当らない。実に、がっかりした。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いや万々ばんばん承知いたしてござる。じゃあ、こんどは一つ、拙者側の注文を申し出よう、それをきいて貰わにゃならぬ
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間がさばけておいでなさいます、物のいもあまいもよくわかっておいでなさるお方でございます、もう御当家のこともお嬢様のことも万々ばんばん御承知の上で……
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今にいたりて死せず、た父兄今日の累を致す、不幸の罪、何を以てかこれにくわえん。しかれども今日の事は、皇家の存亡に関わり、吾が公の栄辱にかかわる、万々ばんばん休すべからず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
総じて名所の歌というはその地の特色なくてはかなわず、この歌のごとく意味なき名所の歌は名所の歌になり不申候。しかしこの歌を後世の俗気紛々たる歌に比ぶればまさること万々ばんばんに候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
女と云ふ者は一体男よりは情がこまやかであるべきなのだ。それが濃でないと為れば、愛してをらんと考へるより外は無い。まさかにあの人が愛してをらんとは考へられん。又万々ばんばんそんな事は無い。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
無論あなたは学校の勤務もあり、うちでは差し迫った仕事のある身で御多忙なのは平尾さんも万々ばんばん承知。ですからあなたに面倒は少しも掛けず、何事も平尾さんの手でやってしまうというのです。
何も当時の君主を奢侈しゃしで人民を苦める御方おんかた見做みなす如き不臣の心を持って居たでは万々ばんばんあるまい、ただし倹約を好み人民を安んずるの六字を点出して、此故を以て漢文を崇慕するとしたに就ては
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
万々ばんばん無いと私は確信するのです。
わたしもそれは万々ばんばん承知しているが、心にもない嘘をつくわけには行かないから、正直に告白するのである。まあ、笑わないで聴いて貰いたい。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
不具者うまく取入っていたのだろう。それにこれまでずっと援助を与えていた関係があるので、事情をあかして頼めば、万々ばんばん裏切る様なことはあるまいと思ったのだ
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すなわちこの一枚の図面は、千人の援兵えんぺいにもまさること万々ばんばんゆえ、一刻もはやく、ご本陣へまいらせたいこのほうのこころざし、なにとぞ、伊那丸さまへ、よしなにお取次ぎを
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴殿の申し条、万々ばんばん道理には候へども、私検脈致さざる儀も、全くその理無しとは申し難く候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
悋気は女の慎しむべきところ。女にして悋気を慎しまば、その他の欠点は男大抵はこれを許しこれを忍ぶべし。悋気をつつしむ愚婦の徳は廻気まわりぎはげしき才女にまさること万々ばんばんなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
万々ばんばん失策に出で候て、私共同志の者ばかりつのり候も、三十人、五十人は得べくに付き、これを率いて天下を横行し、奸賊かんぞくの頭二ツ三ツも獲候上にて、戦死つかまつり候も、勤王の先鞭せんべんにて
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しかれども終局において学識ある者は学識なき者にまさること万々ばんばんなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
僕がそばに居ると智慧ちゑを付けて邪魔をると思ふものだから、遠くへ連出して無理往生に納得させるはかりごとだなと考着くと、さあ心配で心配で僕は昨夜ゆふべ夜一夜よつぴてはしない、そんな事は万々ばんばん有るまいけれど
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いずれにしても、そんなことを気にかけるのは万々ばんばん間違っていると承知していながら、私はなんだか薄気味の悪いような、いやな心持になりました。
白髪鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勿論、根掘り葉掘り詮議したところで、どうで要領を得るような返事を受取ることのできないのは万々ばんばん承知しているので、彼もそのままに口をつぐんでしまった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それも万々ばんばん承知の上で、由兵衛夫婦は何やかやの支度に、この頃の短い冬の日を忙がしく送っていた。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)