一条ひとすぢ)” の例文
旧字:一條
一条ひとすぢ山径やまみち草深くして、昨夕ゆうべの露なほ葉上はのうへにのこり、かゝぐるもすそ湿れがちに、峡々はざま/\を越えて行けば、昔遊むかしあそびの跡歴々として尋ぬべし。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
すべて雪道は人のふみかためたるあとのみをゆきゝするゆゑ、いかなる広き所も道は一条ひとすぢにて其外そのほかをふめばこしをこえて雪にふみ入る也。
雪の野原の中に、一条ひとすぢのレールがあつて、そのレールのずつと地平線に見えなくなるあたりの空に、大きなお月様がポツカリと出てゐました。
夜汽車の食堂 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
しんとしたアカシヤの緑葉の並木の中には、狭いレエルを持つた一条ひとすぢの連頭路が真直まつすぐに真直に続いてゐるのが見わたされた。
アカシヤの花 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
汝は三冬さんとうにも其色を変へねば我も一条ひとすぢに此心を移さず。なむぢ嵐に揺いでは翠光を机上の黄巻くわうくわんに飛ばせば、我また風に托して香烟を木末こずゑの幽花にたなびかす。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
何日もの如く三歳みつつになる女の児の帯に一条ひとすぢの紐を結び、其一端を自身の足に繋いで、危い処へやらぬ様にし、切炉きりろかたへに寝そべつて居たのが、今時計の音に真昼の夢を覚されたのであらう。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
人里を離れて行けば行くほど、次第に路は細く、落ち朽ちた木葉を踏分けて僅かに一条ひとすぢの足跡があるばかり。こゝは丑松が少年の時代に、く父に連れられて、往つたり来たりしたところである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
鏽銀しやうぎんかねよりは一条ひとすぢきぬ薄青うすあをさがりてひかる。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一条ひとすぢにたどりしのみ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
幾尋いくひろともなき深淵ふかきふちの上にこのたなをつりておき一条ひとすぢなはいのちをつなぎとめてそのわざをなす事、おそろしともおもはざるは此事になれたるゆゑなるべし。
何にせよ決してたゞ一条ひとすぢの事ではあるまい、可なり錯綜さくそうした事情が無ければならぬ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
或は白い埃塵の立つ真直な長い一条ひとすぢの路、或は軒の低い白ちやけた家屋の混雑ごた/\と連つてゐる田舎の町或は自動車の爆音に驚いてはね上る牛を一生懸命で路傍に引寄せようとする労働者
山のホテル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
細々と立登る一条ひとすぢの煙の末が望まれるばかりであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かくて、見よ、髪の一条ひとすぢ
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かれたる老樹折れてみちよこたはりたるをこゆるは臥竜を踏がごとし。一条ひとすぢ渓河たにかはわたり猶登る事半里ばかり、右に折れてすゝみ左りにまがりてのぼる。奇木きぼく怪石くわいせき千態せんたいじやう筆を以ていひがたし。
と泣声になり掻口説く女房の頭は低く垂れて、髷にさゝれし縫針のめどくはへし一条ひとすぢの糸ゆら/\と振ふにも、千〻に砕くる心の態の知られていとゞ可憫いぢらしきに、眼を瞑ぎ居し十兵衞は
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
かれたる老樹折れてみちよこたはりたるをこゆるは臥竜を踏がごとし。一条ひとすぢ渓河たにかはわたり猶登る事半里ばかり、右に折れてすゝみ左りにまがりてのぼる。奇木きぼく怪石くわいせき千態せんたいじやう筆を以ていひがたし。
案内者いはく、御花圃はなはたけより(まへにいひたる所)別にみちありて竜岩窟りうがんくつといふ所あり、いはやの内に一条ひとすぢの清水ながれそのほとりに古銭多く、鰐口わにくち二ツ掛りありて神をまつる。むかしより如斯かくのごとしといひつたふ。
此山に遠からずして一条ひとすぢの大河東にながる