食客いそうろう)” の例文
彼は、元来、この町に、立派な玄関を磨いた医師いしゃのうちの、書生兼小使、と云うが、それほどの用には立つまい、ただ大食いの食客いそうろう
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此処こゝ食客いそうろうに参っていて夫婦同様になって居た新吉と云うのは、深見新左衞門の二男、是もかたき同士の因縁で斯様かようなる事に相成ります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
益さんの弟の庄さんも、うちつぶして私の所へころがり込んで食客いそうろうになっていたが、これはまだ益さんよりは社会的地位が高かった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そのお嬢さんに、小藤次が執心らしいが、師匠、一つ骨を折って、奥勤めへでものう。父は浪人になるし、南玉の許に食客いそうろうをしていては——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
いくら食客いそうろうだからといって、今まで一人でほうって置いて、ようやく眠りに就いたのを起しに来るとは、大人げないと思えば思えないでもありませんでした。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
足らないがちのなかに食客いそうろうを置いて、こうのんこのしゃあと日を送っているのだから、確かに変物は変物だ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
よしッ、それじゃ下手人は高木銀次郎とかいう浪人に決った。旗本の食客いそうろうじゃ始末が悪いが、幻の民五郎の正体と判っちゃ放っておけまい。若年寄方と掛合ごっこを
この界隈だけじゃないよ、柴進はお名だが、通り名は小旋風しょうせんぷう、貧乏人にはお慈悲ぶかく、浪人無宿者なども、何十人となく、いつも食客いそうろうとして置いているほどでさ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その馬琴はそれから間もなく、蔦屋重三郎に懇望され、京伝の食客いそうろうから一躍して、耕書堂書店の番頭となったが、これはこの時の代作が稀代の成功をもたらしたからであった。
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
昨日きのうまでは叔父の家とは言いながら食客いそうろうの悲しさには、追使われたうえ気兼苦労而已のみをしていたのが、今日はほか掣肘ひかれる所もなく、心一杯に勉強の出来る身の上となったから
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この二階の食客いそうろうは。年ごろ二十七八にして。目鼻クッキリと少しけんはあれども。かかる顔だちをイキとやらたたえて。よろこべるむきの人もありとぞ。チョイと二ツにたたんだる嘉平かへいはかま
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
「それじゃ聞くまい、聞いたところで、食客いそうろうではなんにもならないから」
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
○「私の処へ無頼やくざ食客いそうろうを置いたばかりでう云う事に成ったんだが、決してお筆さんに其様そん理由わけはない不正金だというが」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と冗談半分の嘆声をもらしたが、「どうです里見さん、あなたの所へでも食客いそうろうに置いてくれませんか」と美禰子の顔を見た。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いわばお百姓様の食客いそうろう同様なものだから、なるべく遠慮して、少なく食ってもらいたい。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しばらくいくさが絶えたため、衣食に困って、この稲葉山のさる武家屋敷のうまやへ、馬盗みに入って逃げ出したところ、そこの食客いそうろうの十兵衛という男に馬で追いかけられて捕まってしまい
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
食客いそうろうの栄三郎は、いつものようにすぐに野猿梯子やえんばしごを登って与えられた自室へ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「何うです、泊りませんか……ッたってね、私も実は、余所よその別荘に食客いそうろうと云うわけだが、大腹たいふくな主人でね、戸締りもしないうちなんだから、一晩、君一人ぐらい、私が引受けて何うにもしますよ。」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、弾かすと、義太夫の食客いそうろう、トテシャンと弾く。
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そんなところになると、下宿人の私は主人あるじのようなもので、肝心かんじんのお嬢さんがかえって食客いそうろう位地いちにいたと同じ事です。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
由「ハヽア此の座敷つぼへ世帯を…成程うから持ちたいと思ったが、今迄店請たなうけが無いから食客いそうろうでいたが、是から持ちますからお前店請になっておくんなせえ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わしのもとにいる食客いそうろうや若い者でも、都にありし日、あなたの教導を受けたという話はかねがね何度も聞いている。……ともあれ、ぜひ今夜は、てまえの屋敷に一泊していただきたい
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これだけの人数を食客いそうろう背負込しょいこみては警察大難儀おおなんぎ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「奥勤めができんなら、暫くは、南玉の食客いそうろうかの」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
門野が代助の所へ引き移る二週間前には、この若い独身の主人と、この食客いそうろうとの間にしもの様な会話があった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新吉は他人ひとが来ると火鉢の側に食客いそうろうの様な風をして居るが、人が帰って仕舞えば亭主振ていしぶって居りますが、甚藏と聞くとっとする程で、心のうちで驚きましたが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
困るてえからわっちの処に食客いそうろうだけれども、何を不調法しましたか、旦那堪忍しておくんなえ、田舎珍らしいから、柿なんぞをピョコ/\取って喰いかねゝえ奴だが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そうしないと、与次郎が広田の食客いそうろうだということを知っている者が疑いを起こさないともかぎらない。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とピシーリ/\叩かれるからすぐに口がいて、実は五斗兵衞市の処に食客いそうろうに居るうちに裏に小間物屋孫兵衞と云う者が居て、孫兵衞の娘のお筆が私に礼をすると云って巾着をすべらし
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところが日本の現代の開化を支配している波は西洋の潮流でその波を渡る日本人は西洋人でないのだから、新らしい波が寄せるたびに自分がその中で食客いそうろうをして気兼きがねをしているような気持になる。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兄イ兄イ…おっかさん黙っておいでなさい…兄イ此処ここじゃア話が出来ねえから台所へ往って話をしよう、おれは番場の森松と云う者で、悪い事は腹一杯いっぺえやって、今は此方の旦那のうち食客いそうろう
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)