かん)” の例文
彼は軟かい食パンとバタとハムのかんを買った。それから果物屋で真赤に熟した林檎りんごを買った。彼は喉をグビグビ云わせながら家へ帰った。
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
若いキリリとした女房おかみさんが、堀井戸に釣るしてあったかんからコップへ牛乳をんでくれた。濃い、甘い、冷たい牛乳だった。
女は浴室バスから上ったらしい丈夫相な半裸体のまま朝の食事をって居た。車付きの銀テーブルの上にキャビアのかんが粉氷の山に包まれて居る。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「馬鹿言え。お茶受もあるのだ」爺いさんは起って、押入からブリキのかんを出して、菓子鉢へ玉子煎餅せんべいを盛っている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかも二本の烟突は五六けん位離れて相並んで石油かんのブリキ板でいた平たい小屋の頭からにょきりと突出ていた。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
文字通り、それは小屋のようなところで、バスケットに腰をかけると、豆くさいけれども、それでも涼しかった。ふやけた大豆が石油かんの中につけてあった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
半四郎は飯櫃おはちと重箱とほかに水道の水を大きな牛乳かん二本に入れたのを次ぎ次ぎと運んでくれる。今夕の分と明朝の分と二回だけの兵糧ひょうろうを運んでくれたのである。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
小さな墨汁すみかん。頬紅と口紅を容れたコンパクト。化粧水。香油。クリーム。練白粉ねりおしろいの色々……等々々。いずれも、斯様かような部屋に似合しからぬ品物ばかりで……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこから中座の筋むかい、雁治郎飴の銀杏返いちょうがえしに結った娘さんから、一かん、ゆいわたを締めつけるように買ってきた包のなかから、古典の都市がちらちら介在する。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
合宿の戸棚とだなのグリスかんの後ろになかったかなアと、みぞのなかをみつめている最中、ふとおもいつくと、ぐまた合宿の二階に駆けあがって、戸棚をあけ、鉄亜鈴てつあれい
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
とんぼをつかまえて来たりあきかんにいっぱいいなごを取ってはあひるに食わせることを覚えて来た。
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
食物とビールとを取り過ぎて変形した巨大な肉塊、それはあたかも、煙草のかんのような人間だった。
戸を叩いても返事がない。仕方がなしに引っ返そうとすると、となりの空地にビールの配達が白い金属のかんをあつめていて、わたしのほうを見かえりながら声をかけた。
きざみ煙草をもう一かん買って来て貰うことにして、てストーブを囲んで、落ちついてふかし初めた。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
何でもかでも破裂せんばかりに乱打し、同時に市民は戸外に躍り出で、金盥かなだらい、ブリキかん、太鼓など思い思いに打鳴らして、さて一斉に万歳を叫び、全市鳴動の大壮観を呈し
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
煙草のかん、いくつかのパイプ及び水煙管みずぎせる——ちなみに、この水煙管は船長が戦争に参加したというミルン氏の物語に少しく色をつけるが、その連想はむしろ当たらないらしい。
汚物のかんが倒れ溢れても起さず、汐を被っても拭わず、ただもうべったりと甲板にしがみついているのである。その上を鱗だらけの空樽が幾つとなく転げ廻るのだから耐らない。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
細かいかき餅のかんを見つけて振って見たり、かごのなかの林檎りんごを取り出して眺めたりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「まあ、待てよ」と起上たちあがって、戸棚とだなの中から新しい菓子の入ったかんを取出した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やがて大阪に着しければ、安藤久次郎あんどうきゅうじろう氏の宅にて同志の人を呼びひそかに包み替えんとするほどに、金硫黄きんいおうという薬の少し湿しめりたるを発見せしかば、かんより取り出して、しばさんとせしに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ビスケットのかんとお茶の道具を持って帰って来ると、乞食娘を、汚いとも思わず、立派な椅子にかけさせ、その前のテーブルに、ビスケットの鑵を置いて、奇怪千万なお茶の会を開いたのである。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうして膝の上に置いたちいさかんの中に手を入れてはポリポリ喰べている。見るとそれは南京豆だ。彼の足許あしもとは申すに及ばず、私の膝の上まで甘皮が散っている。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ポンド入りのかんの上に貼った黄色い紙に、C・Pという頭文字イニシアルと、その植物の絵が印刷してあります
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二声三声呼んでいるうちに自分の倒れているのを見付けて急いでやって来た。驚いて寄って来た。机の上に胃活いかつかんがあるから取ってくれと頼んだらすぐに取って来て呑ませようとした。
病中記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お増は茶箪笥のかんのなかから、干菓子を取り出して、子供にくれた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「石油そんなにりません。一かん三月みつきもある。私の家もそう」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)