かね)” の例文
出るさきになって気がついたのは、お里の母の死を聞いた時とおなじように、彼は幾らかのかねを用意して行かなければならない事である。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
張横はにんやりとし、ぞんぶん一人一人のふところをゆすッて、かねや持物をとりあげ、ほどよい岸へ着けて追ッ放してやるのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平八は続けて「それで、おれは、まえから自活する手段を考え、毎月の手当の中から、いくばくのかねを貯めていた」と云った。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
されどかのグアスコニアびとが未だ貴きアルリーゴをあざむかざるさきにその徳の光は、かねをもつかれをも心にとめざる事において現はれむ 八二—八四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
私の物はとられましてもうございますが、その中に代官所へ納める年貢ねんぐかね、三貫目といふものを盗み取られました、常が常でございますから
私としたことが、妹にもらったかね包みをただ身につけてそッとしまっておけば何事もなかったのに、神ダナへ上げて拝んだから人に見られてしまいました。口惜しや。
あのかねは、今考えてみますと、私の前の夫です、私はすこしも知らないものですから、あなたにさしあげてあんなことになりました、私はこれを云いたくてあがりました
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
とほり、おかね間違まちがひいんですから、うでせう、ひと人參にんじん澤山たくさんつて、一所いつしよ宿やどまでくださいませんか。主人しゆじんらせりや、いさくさなし、わたしたすけるんです、うでせう。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
幾何いくら、何某誰殿へ、使い誰と、一字一点毛頭まで、うの毛ほども違いなく、両手にげる大帳を半日ばかりに書きしまい、これでもかねにならぬかと、空嘯いておわしければ、家城大いに肝を潰し
此筋このすじかねも見しらず不自由さよ 蕉
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
この筋はかねも見知らず不自由さよ
天狗 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼のかねの入り途を疑って、そういう不信用の人間に大事の金を貸されないというような口ぶりで、あくまでもかぶりを振り通した。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「もつてけえつて鮨桶を、明けて見たりやあ」にて蓋をとる手振を見せ「中にはかね」にて示指にて桶の中を指す。
飲んでやろうか「飲むぐらいのかねはある」そうだ、もう母に仕送りをしなくともよくなった。これからは、毎月の手当を好きなように遣うことができる。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「われわれは、府庁からまいった者だが、その方は何者だ、白氏はくしなら韓大爺かんだいや牌票ぱいひょうがある、その方が許宣にやったかねのことに就いて尋ねることがあるから、いっしょに伴れて往く」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それにしても、柴進さいしん添書てんしょかねが、ここでは、どんなにものをいったかしれない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去年の元旦に妹が年賀に参りまして、かね一包みお年玉にくれましたが、あまりの嬉しさに神ダナにあげて拝んでおりましたのを、見ていた者がいたんですね。その夜のうちに盗まれてしまったのです。
婆さんはただでもいいと言うのだが、まさかに唯でも済まされないと、友蔵は一朱のかねをやって、その猫をゆずり受けた。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
母親が渡すかねを「一貫目、二貫目、三貫目」と一々母の口真似をして数へて頂き、手拭を拡げて包み
ははん、こいつかねを持ってやがるナと、そう睨んだのでぼくさん兄弟や若いのが、渡せ渡せと、岸でわいわいおどしゃあがったが、こっちも渡世と、とうとうお返し申さず仕舞いというわけさ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
李幕事はそう云ってかねを手に執りあげた。そして、その銀の面に眼を落した。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小坂さんは紙入から幾らかのかねを出して、紙につゝんで渡そうとすると、相手の方ではいよ/\怒り出しました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
許宣はそう言って袖の中から五十両のかねを出して姐の手に渡した。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「じゃあ、失礼だが、これだけのかねをためるにはたいへんだろ」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんと思ったか、半七は紙入れから一歩のかねを出して徳寿の手に握らせた。そうして、ちょいと其処まで来てくれと云って、彼を左側の横町へ連れ込んだ。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
弥太郎もよほど気の毒になったのと、一つはお染に対する見得みえもまじっているらしく、幾らかのかねを紙に包んで、お前の行くついでにこれをお里にやってくれと出した。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その当時の徳川幕府は金がなかった。むを得ずして悪いかねを造った、随って物価は騰貴とうきした、市民は難渋した。また一方には馴れない工事のために、多数の死人をいだした。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひるに近い頃に、吉五郎は迎いの駕籠を吊らせて来て、納所坊主や寺男に礼を云って、留吉を受け取って出た。出るときに、吉五郎は寺男の弥七に幾らかのかねをつつんでやった。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
男は世話になった礼だと云って、女房に一朱のかねをくれた。こっちが辞退するのを無理に納めさせて、新しい蝋燭を貰って提灯をつけて、かれは傘をさして暗い雨のなかを出て行った。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一朱は廉いと思ったが、実はその処分に困っているところであるのと、一方の相手が旗本の息子であるのとで、みんなも結局承知して、三尺八寸余の鯉を一朱のかねに代えることになった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は分け前のかねをうけ取ると共に、娘を連れてその郷里を立去って、その銀を元手に旅商人になったが、比較的正直な人間とみえて、昔の罪に悩まされてその後はどうもよい心持がしない。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かの鯉を生捕ったのは新堀河岸の材木屋の奉公人、佐吉、茂平、与次郎の三人と近所の左官屋七蔵、桶屋の徳助で、文字友から貰った一朱のかねで酒を買い、さかなを買って、景気よく飲んでしまった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから毎日邪魔をするからと云って幾らかのかねを包んでやった。
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)