金高きんだか)” の例文
ほのかに聞き知っているが、父親が質屋の金しか借りたことがなく、それも借りたい金高きんだかを番頭が因業で貸してくれぬことがあっても
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
陰気な燈火ともしびの下で大福帳だいふくちょう出入でいり金高きんだかを書き入れるよりも、川添いのあかるい二階家で洒落本しゃれほんを読む方がいかに面白かったであろう。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
する筈はないから、衣裳万端当該町民が負担しなければならない。これが大変な金高きんだかのようだよ。三馬鹿の三馬鹿たる所以ゆえん
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
米国の銀行家の説によると、長年出納勘定に熟練してゐる銀行家が一時間に勘定出来る銀貨の金高きんだかは大きく見積つて、ざつと四千ドルといふ事だ。
健三が毎月送る小遣さえ時々借りられてしまうくせに、姉はついに夫の手元に入る、または現在手元にある、金高きんだかを決して知る事が出来なかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしその金高きんだかを申しますと、甚内は小首こくびを傾けながら、今夜の内にはむずかしいが、三日も待てば調達しようと、無造作むぞうさに引き受けたのでございます。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お礼の金高きんだかを、だんだん、せりあげて、しまいには、船の持ちぬしにも、船をこいでくれる人にも、また、島のあんないをしてくれる人にも、ひとりに十万円ずつ、お礼をすると
怪奇四十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どうかして、自分も大人になったら、偉い人になって百円の月給取になろうと、あたかも天下を望むような大きな事として考えていた。百円の金高きんだかは、広大無辺に思われたのである。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
森「もし旦那え彼奴あいつ打擲ぶんなぐると顛倒ひっくりかえるから、そうすると金高きんだかのぼりますよ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これよつて享保三年五月十八日双方共さうはうとも呼出よびいだされ淡路守殿彦兵衞に向はれ其方儀彌七は何時いつ召抱めしかゝへたるやと尋ねらるゝに彦兵衞つゝしんで去年きよねん師走しはすに召抱候と申をよく勘辨かんべん致せ未だ氣心も知れぬ者に金高きんだかの品を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ソレを三千枚写すと云うのであるから、合計して見ると中々大きな金高きんだかになって、おのずから書生の生活を助けて居ました。今日こんにちよりかんがうれば何でもない金のようだけれども、その時には決してそうでない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
金高きんだかにして、ざっと七八十両がものはありますぜ
陰気いんき燈火ともしびの下で大福帳だいふくちやう出入でいり金高きんだかを書き入れるよりも、川添かはぞひのあかるい二階洒落本しやれほんを読むはうがいかに面白おもしろかつたであらう。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
渋江氏の秩禄公債証書はこの年に交付せられたが、削減を経た禄を一石九十五銭の割を以て換算した金高きんだかは、もとより言うに足らぬ小額であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
野崎氏はいやうにはからつた。富豪かねもちあと金高きんだかを聞いて、自分の胸算用より少し出し過ぎたなと思つた。ちやう婦人をんな客が百貨店デパートメントストア帰途かへりにいつも感じるやうに……。
が、いくら友人たちが躍起となっても、私は一度も負けないばかりか、とうとうしまいには、あの金貨とほぼ同じほどの金高きんだかだけ、私の方が勝ってしまったじゃありませんか。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「三拾円」と女が金高きんだかを云つた。あたかも毎日銀行へかねりに行きけた者に対する口振くちぶりである。幸ひ、三四郎はくににゐる時分、かう云ふ帳面を以て度々たび/\豊津とよつ迄出けた事がある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それがため別に身代にさわる程の金高きんだかでもありませんから、清く出しましたが
「三十円」と女が金高きんだかを言った。あたかも毎日銀行へ金を取りに行きつけた者に対する口ぶりである。さいわい、三四郎は国にいる時分、こういう帳面を持ってたびたび豊津とよつまで出かけたことがある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)