遣過やりすご)” の例文
先方むかうから来た外套の頭巾目深の男を遣過やりすごすと、不図後前あとさきを見廻して、ツイと許り其旅館の隣家となりの軒下に進んだ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
十分に遣過やりすごうしろの方より物をも云ず切掛しに三五郎も豪氣さるものなれば飛退とびのきさまに拔合せ汝れ重四郎めなんぢや惡事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
婦人はとにもかくにも遣過やりすごせしが、又何とか思直おもひなほしけん、にはかに追行きて呼止めたり。かしら捻向ねぢむけたる酔客はくもれるまなこと見据ゑて、われひとかといぶかしさにことばいださず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
先刻さっき餅菓子を買われた時、嬉しそうに莞爾にっこりして、酌をする前に、それでも自分で立って、台所の戸障子を閉めて、四辺あたりを見たから、その時は戸袋へ附着くッついて、色ッぽい新造の目を遣過やりすごしておいて
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宮は鳩羽鼠はとばねずみ頭巾ずきんかぶりて、濃浅黄地こいあさぎぢに白く中形ちゆうがた模様ある毛織のシォールをまとひ、学生は焦茶の外套オバコオトを着たるが、身をすぼめて吹来るこがらし遣過やりすごしつつ、遅れし宮の辿着たどりつくを待ちて言出せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
見返りしに人影もなく丁度ちやうど往來も途絶とだえしかばその邊にて殺さんと思へども此奴きやつ勿々なか/\の曲者なれば容易たやすくうしなひ難しれども幸ひ今宵はやみにてくらさはくらしいかにも遣過やりすごしてと思ひ故意わざと腰を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うたひながら悠々いう/\大宮村おほみやむらへと行けるをりから畔倉は少し遣過やりすごしつゝうかゞよつて後より大袈裟掛おほげさがけに切付れば流石さすがの金兵衞も手練てなみの一刀にたまり得ずアツと一こゑさけびしまゝ二ツに成てはてたりけり重四郎は呵々から/\と打笑ひ仕てやつたりと云ながら刀ののり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)