いさ)” の例文
それを温和に過ぐる性質の安はいさめようともしないので、五百は姉を訪うてこの様子を見る度にもどかしく思ったが為方しかたがなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お母様の讐敵かたきを取りたい……義理のお父様の隠れ遊びをおいさめになりたいばっかりに、私の頼みを無条件で引き受けて下すったのです。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今更如何いかめたりともそのかいあらんようなく、かえって恥をひけらかすにとどまるべしと、かついさめかつなだめけるに、ようように得心とくしんし給う。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「僕は侍医じいの役目として」と、ルーシンは答えた。——「その女王をいさめますな。お客どころでない非常時に、舞踏会なんか催さないようにね。……」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そつと髪を切らうとして居る所へ母親があらはれて来て、あの小楠公せうなんこうの自殺をいさめたやうなことを、母親が切物きれものを持つた手を抑へながら云ふやうな光景が見えて来ました。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
成はかたくいさめてはては涙さえ見せたので、周もよすことはよしたが怒りはどうしてもけなかった。それがためにその夜はねむらずに寝がえりばかりして朝になった。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
翌日は逢ってっていさめてどうしても京都にかえらせるようにすると言って、芳子はその恋人のもとうた。その男は停車場前のつるやという旅館はたごや宿とまっているのである。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
誠実をおもてに現わして、いさめるようにそういったのは、その前髪の少年武士であった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はほとほとをののきて、むしろ蒲田が腕立うでだての紳士にあるまじきをいさめんとも思へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
聞きほじると、生意気にいさめだてして、それにゃ、浄海入道も閉口へいこうだからな
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お山登りは一切なりません。一命をしてもおいさめ申しあげます」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
出れば近所の子にせがまれてありったけの小銭こぜにをやっていたが、その無意味な贈物おくりものが不道徳な行為だと友人にいさめられて、ある日道を変えて宿へ逃げ帰るところを、斥候せっこうを放った子供達に包囲されて
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
マンハイムはそれをいさめた。
この事知りていさめし、内閣の秘書官チイグレルは、ノイシュワンスタインなる塔に押籠おしこめらるるはずなりしが、救ふ人ありて助けられき。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
仮令たといどのような忌わしい方法ででもお救い申し上げて、正しい、明るい道にお帰りになるようにおいさめ申し上げるのが、私のような女に授けられた道ではないのでしょうか。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
芳子がその二階に泊って寝ていた時、もし自分がこっそりその二階に登って行って、遣瀬やるせなき恋を語ったらどうであろう。危座きざして自分をいさめるかも知れぬ。声を立てて人を呼ぶかも知れぬ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ことには母上の病気とあるに、いか余所よそにやは見過ごすべき、し途中にて死なば死ね、思いまるべくもあらずとて、人々のいさむるを聞かず、叔母おば乳母うばとに小児を托して引かるる後ろ髪を切り払い
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
この時根津ねづ茗荷屋みょうがやという旅店りょてんがあった。その主人稲垣清蔵いながきせいぞう鳥羽とば稲垣家の重臣で、きみいさめてむねさかい、のがれて商人となったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
五百いおは父忠兵衛をいたわり慰め、兄栄次郎をいさめ励まして、風浪にもてあそばれている日野屋という船のかじを取った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)