蘆原あしはら)” の例文
安藤謹んで曰く、今日蘆原あしはらを下人二三人召連通めしつれとおり候処、蘆原より敵か味方かととい、乗掛見れば、さむらい一人床机に掛り、下人四五人ならび居たり。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
まへにいつたその逗子づし時分じぶんは、うら農家のうかのやぶをると、すぐ田越川たごえがはながれのつゞきで、一本橋いつぽんばしわたところは、たゞ一面いちめん蘆原あしはら
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
秋はしだいにたけて、ならの林の葉はバラバラと散った。虫の鳴いた蘆原あしはらも枯れて、白のすすきの穂がしろがねのように日影に光る。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
志津胤氏しづのたねうじという者が臼井の城を攻め落した時に、おたつはかいがいしく若君を助けてのがれさせ、自分はこのあたりの沼の蘆原あしはらの中に隠れていました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
押砂河岸おしすながしで夜船を上って、阿波村に行く途中の蘆原あしはらで、急に竜次郎が腹痛を覚えた時に、お鉄は宛如まるで子供でも扱うようにして、軽々と背中に負い、半里足らずの道を担いで吾家に帰り
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
もとより漁師ばかりが住んで居る所です。蘆が沢山生えて居る所です。蘆原あしはらとも云ひます。堀割の向う岸からはもう少しづつ松が生えて居まして、ずつと向うが浜寺はまでらの松原になるのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ぱうは、ひしや/\とした、何処どこまでも蘆原あしはらで、きよつ/\、きよつ/\、とあし一むらづゝ、じゆんに、ばら/\と、また飛々とび/\に、行々子ぎやう/\しきしきつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
最近に八郎潟はちろうがたのほとりで生れた者が訪ねて来て、いっしょに岡のふもと蘆原あしはらをあるいて、この鳥のさえずりを聴いたのだが、この人々ははっきりとジの音をにごって呼んでいた。
はい、申されまする通り、世がまだ開けませぬ泥沼の時のような蘆原あしはらでござるわや。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左手ゆんでみさき蘆原あしはらまで一望びょうたる広場ひろっぱ、船大工の小屋が飛々とびとび、離々たる原上の秋の草。風が海手からまともに吹きあてるので、満潮の河心へ乗ってるような船はここにおいて大分揺れる。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それも秋で、土手を通ったのは黄昏時たそがれどき、果てしのない一面の蘆原あしはらは、ただ見る水のない雲で、対方むこうは雲のない海である。みちには処々ところどころ、葉の落ちた雑樹ぞうきが、とぼしい粗朶そだのごとくまばららかって見えた。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裏手は一面の蘆原あしはら、処々に水溜たまり、これには昼の月も映りそうに秋の空は澄切って、赤蜻蛉あかとんぼが一ツき二ツ行き、遠方おちかたに小さく、つりをする人のうしろに、ちらちらと帆が見えて海から吹通しの風さつ
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)