たら)” の例文
だから、正しい意味では、彼は女たらしだとか色魔だとは呼べないのだが、不幸にも彼は、女に対してそれだけの魅力を持った男だ。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
性わるとか、おんなたらしなどと云われる客は、かえって扱いよかったが、若い職人とかお店者たなものなどで、本気になってかよって来る者には困った。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「能登守という奴が悪いんだ、あいつがお君をたらしたから、それであの女があんなことになっちまったんだ、御支配が何だい、殿様が何だい」
この男、野心満々たるたらし屋で、ねらうところは最高権力にあった。王家の娘との婚姻によって、兄の摂政と勢力を張り合おうという気持だったのである。
皆は言ひ合せたやうに、眼を閉ぢてねむつた風をしてゐた。医学士は娘に向つて、一言二言話してゐるうちに、いつも女をたらす折にするやうに、掌面の講釈を始めた。
「旨いことを並べて園絵どのをたらし込む口はあっても、われらに応対する口はないと言わるるのか?」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それで、千々子さまをたらしこんで、黒いスーツのひとのかわりに、うまく使いまわそうとかかった。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それがみんな色と慾で、女をたらして自分のふところを肥やしているという、まったく凄い女でした。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
野村は女學生をたらして弄んで、おまけに金を捲上げて居るとか、牧師の細君と怪しい關係を結んでるさうだとか、好からぬ噂のみ多い中に、お定と云つて豐橋在から來た
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのざまは! 男のつら汚し! 片棒担いでくれ、栄耀栄華えいようえいがは思いのままだ、俺は国王陛下の弟だ、と年中大口たたいてたのは、どこの誰だい! 女たらしのカタリ犬め! よくもよくも
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「色仕掛けでたらし込み、相手の腹を探るというのが、いかにも最初からの約束ではあるが、ああ眼の前で見せ付けられちゃ、しゃくの虫も起ころうというもの、何さ、実は気がめるのさ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
僕はきっと蒔岡家のとうさんをうまいことたらし込んで身分違いの結婚をした、と云う風に云われるでしょうが、世間が云うのは構わないとして、啓坊にそう思われるのが一番つらい、などとも云い
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もともとプリマドンナといわれるには、優れた実力がなければなれないのですが、中には色気でたらしこんでパトロンを作り、パトロンのお金の力でプリマドンナになったというインチキなのもいます。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
まことに朕が訓導くんだうあきらかならざるにりて、民多く罪に入れり。めは一人ひとりに在り。兆庶てうしよあづかるにあらず。宜しく寛宥くわんいうを存せ令めて仁寿にんじゆのぼらせ、瑕穢かゑたらしてみずかあらたにする事を許すべし。天下に大赦だいしやし。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「石部金吉の若殿をころりとたらした女だからの、それは美人に相違ないとも」「いやいや案外そうではあるまい。奇抜好みの若殿だ、にんばけ七の海千物うみせんものを可愛がっておられるに違いない」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
殊に囲い者や後家さん達がわざわざ遠方から来るというのを聞いて、わたくしは少し変に思って、もしやと疑っていたら案の通りでした。つまりは色と慾との二筋道ふたすじみちで、女が女をたらして金を絞り取る。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)