“華奢(かしゃ)” の例文
若い顕官たち、殿上役人が競うように凝った姿をして、馬や鞍(くら)にまで華奢(かしゃ)を尽くしている一行は、田舎(いなか)の見物人の目を楽しませた。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
馬上、華奢(かしゃ)な羅張(うすものば)りの笠に、銀波を裾に見せた紗(しゃ)の袖なし羽織という装いの佐々木道誉が、高氏を見て、遠くからほほ笑みかけていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或る華奢(かしゃ)なる美術狂某がこの地に天然の趣味を欠ぎたるを恨み、吉野、嵐山の桜の花片を汽車二列車に送らしめてこれを御茶の水に浮べ、数艘の画舫(がぼう)
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
其角という人は元禄時代の俳人としては比較的華奢(かしゃ)な心持を抱いた人で寂し味に生命を見出した芭蕉の弟子としては大分肌合の違った人でありますが
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
わたくし贅沢(ぜいたく)や華奢(かしゃ)を云うのではないのよ、一生のうちのむすめ時代というもの、そのとし頃だけに許される若さをいうんです、そしてこれはなかなか大切なことなんです
日本婦道記:風鈴 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ただ華奢(かしゃ)にばかりながれて。田中屋の白木屋のと服の競争をするようなもので。わたくしもどうかきるならば。平生にきたいと存じますけれど。塾(じゅく)も日本造りでござりますから。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
そうして頭の中で、自分の下宿にいた法科大学生が、ちょっと散歩に出るついでに、資生堂へ寄って、三つ入りの石鹸(シャボン)と歯磨を買うのにさえ、五円近くの金を払う華奢(かしゃ)を思い浮べた。
門 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
唐(とう)の玄宗(げんそう)、開元は三十年の太平を享(う)け、天宝(てんぽう)は十四年の華奢(かしゃ)をほしいまゝにせり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
世潮はとうとうと華奢(かしゃ)淫逸へながれてゆくのを見ながら、承応(じょうおう)、万治(まんじ)、延宝(えんぽう)などのあいだは、一般にただ懐疑的であったといえる。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姫君が上がる式に人目を驚かすような華奢(かしゃ)はしたくないと源氏は質素にしたつもりであったが、やはり並み並みのこととは見えなかった。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いつも華奢(かしゃ)に流れることは遠慮したいとお言いになる院も、あまりお止めにはならなかったために、目もくらむほどのお産養の日が続き
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
蔭間茶屋(かげまぢゃや)の色子(いろこ)(野郎(やろう))風俗だの売女の装(な)り振(ふ)りが、良家の子女にまで真似られて、大奥や柳沢閥の華奢(かしゃ)をさえ、色彩のうすいものにした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他の国の宮廷にもないと思われる華奢(かしゃ)を尽くした姫君の他の調度品よりも、この墨蹟(ぼくせき)の箱を若い人たちはうかがいたく思った。
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
浮わついた風俗と華奢(かしゃ)を競い、人間すべてが満足しきッてでもいるような妖(あや)しい享楽色と放縦(ほうじゅう)な社会をつくり出していた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その車が皆桟敷の前に立て並べられたのである。あれはだれのほう、それは何夫人のほうの車と遠目にも知れるほど華奢(かしゃ)が尽くされてあった。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一ト目で佐々木家とわかる道誉好みの“山吹いろ一色”の行列は、やがて華奢(かしゃ)な粧いをこらした主(あるじ)を螺鈿鞍(らでんぐら)の馬上にみせて佐女牛から練って行った。
女御の座敷のほうも春の新しい装飾がしわたされてあって、華奢(かしゃ)を尽くした女房たちの姿はめざましいものであった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
「……はて、そんな中で、陣屋の態(てい)なら知らぬこと、こんな私邸めかした華奢(かしゃ)を飾って、はばからぬのは何者なのか」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから書籍類、詩集などを入れた箱、そのほかには琴を一つだけ携えて行くことにした。たくさんにある手道具や華奢(かしゃ)な工芸品は少しも持って行かない。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
柴進みずからは、華奢(かしゃ)な狩猟扮装(かりいでたち)を、この日は一ばい派手やかに、馬上となって、門前に出る。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
華奢(かしゃ)な生活のここが中心になっている所であるから、人出入りもあまりに多くて若い女性には気の毒である。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
都に軍馬が満ちてからも、鎌倉同様に、それらの者の保護令を布(し)いただけでなく、彼自身の華奢(かしゃ)好みも刺戟して、諸職の振興に一段の戦時景気をよび起していたからだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
華奢(かしゃ)を尽くした高官たちの馬、鞍(くら)、馬添い侍、随身、小侍の服装までもきらびやかな行列であった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
……ごらんなさい、とうとう世上の華奢(かしゃ)、淫蕩(いんとう)、贈賄(ぞうわい)、涜職(とくしょく)の風。役人は役人で、下(しも)は下(しも)で、この国をここ十年か二十年で蝕(く)い腐(くさ)らしてしまいそうなほど、浅ましい世の有様を
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
音楽の遊びがあって贈り物に纏頭(てんとう)に六条院にのみよくする華奢(かしゃ)が見えた。多数の縉紳(しんしん)は皆きらびやかに風采(ふうさい)を作っているが、源氏に準じて見えるほどの人もないのであった。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
(甲州出の武辺者が、華奢(かしゃ)な邸宅が軒を並べている間に住むのは、不得手でござれば——)
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
踏歌(とうか)は女御がたの所へ実家の人がたくさん見物に来ていた。これは御所の行事のうちでもおもしろいにぎやかなものであったから、見物の人たちも服装などに華奢(かしゃ)を競った。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
わがままで、華奢(かしゃ)放逸(ほういつ)。優れているのは、管絃と画だけだ、とみないうのである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お送りの高級役人、殿上人、六位の蔵人(くろうど)などに皆華奢(かしゃ)な服装をさせておありになった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ちかごろ彼の家中風俗を町でも“伯耆様(ほうきよう)”と呼んでいるほど、いつのまにか都振りに染(そ)んで、恩賜(おんし)の“帆掛(ほか)け紋(もん)”を、旗、道具、衣裳につけ、その行装の華奢(かしゃ)なこと、たれにも負けない風だった。
中宮からも、童女、下仕えの女房幾人かの衣服を、華奢(かしゃ)に作って御寄贈になった。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
百姓も町人も工人(こうじん)もそちたち侍どもも、さだめしこの世をおもしろおかしく、華奢(かしゃ)に遊楽に暮したかろう。——世はいま元禄五年、江戸も京も、他領の国々も、なべてそういう風潮の世であるものを。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娘のためにはまぶしい気がするほどの華奢(かしゃ)な設備のされてある入道の家であった。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「——むごいようだが、手のほうは道中だけ辛抱して貰おうか。その代り江戸表へ入りさえすれば、どんな気まま、どんな華奢(かしゃ)も自由としよう、旅川周馬様の奥方、まんざら悪い身分ではないでしょう」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屯食(とんじき)五十具、碁手(ごて)の銭、椀飯(おうばん)などという定まったものはその例に従い、産婦の夫人へ料理の重ね箱三十、嬰児(えいじ)の服を五枚重ねにしたもの、襁褓(むつき)などに目だたぬ華奢(かしゃ)の尽くされてあるのも
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
配流(はいる)から帰った後も、以前にまさる華奢(かしゃ)風流を振舞っているが
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人が姫君をかしずく以上の華奢(かしゃ)な生活をおさせになるようでまばゆく見えた。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
入り江の水の姿の趣などは想像力の乏しい画家には描(か)けないであろうと思われた。須磨の家に比べるとここは非常に明るくて朗らかであった。座敷の中の設備にも華奢(かしゃ)が尽くされてあった。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
華奢(かしゃ)な祝品の数々のほかには実用品も多く添えて源氏は贈ったのである。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と衛門督(えもんのかみ)が申すと、華奢(かしゃ)を尽くしてお目にかけたという前日の賀宴を女二の宮の関係でしたとは言わずに、父のためにしたと話すのに心の鍛錬のできていることがうかがわれると院は思召された。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
ただ室内の道具などにだけ華奢(かしゃ)な品々が多く残っていた。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)