花崗岩みかげいし)” の例文
溝にわたした花崗岩みかげいしの橋の上に、髮ふり亂して垢光りする襤褸を著た女乞食が、二歳許りの石塊いしくれの樣な兒に乳房をふくませて坐つて居た。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
直ぐその家に眼をったのであるが、花崗岩みかげいしらしい大きな石門から、かえで並樹なみきの間を、爪先つまさき上りになっている玄関への道の奥深く
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのいしずえ花崗岩みかげいしと、その扉の下半分とが、ぼうと薄赤く描き出されていた。どうした加減か一つのびょうが、鋭くキラキラと輝いていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
又は近道伝ちかみちづたいの太宰府参りらしい町人なんどが真黒く、犇々ひしひしと押しかけて、中央の白い花崗岩みかげいしの石甃の上を、折重なるように凝視している。
半町はんちょうばかり往くと桐島のやしきが来た。花崗岩みかげいしを立てた大きな門の上には電燈が光っていた。その電燈の上に裸樹はだかぎの桜の枝がかすかに動いていた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と突然師父ブラウンのパイプが口からすり落ちて花崗岩みかげいしの廊下の上で三つに割れた。彼は阿呆の様に眼球をクルクル廻転させた。
一足踏込んでプツリと斬りましたが、殺しは致しませんで、蟠作のたぶさとお村の髻とを結び、庭の花崗岩みかげいしの飛石の上へ押据おしすえて
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
盂蘭盆会うらぼんえの名残りの提灯や、お供え物が、方々の墓に、いくつも残っている。「玉井家累代之墓」と彫られた、花崗岩みかげいしの墓標の前に立った。合掌した。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
定めし少女も小生と同様、桜の花や花崗岩みかげいししほしたたる海藻をおもひ居りしことと存じ候。これは決して臆測おくそくには無之これなく、少女の顔を一瞥いちべつ致し候はば、誰にも看取かんしゆ出来ることに御座候。
伊東から (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
べつ貴重きちやうの金石を発見はつけんせず、唯黄鉄鉱の厚層こうさうひろ連亘れんたんせし所あり、岩石は花崗岩みかげいし尤も多く輝石安山岩之にげり、共に水蝕のいちじるしき岩石なるを以て、いたる処に奇景きけいを現出せり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
莊園のやしきの極く眞近かに迫つてさへそれを見ることが出來ない、それ程に深く鬱蒼うつさうと陰鬱な森が、周りに生ひ茂つてゐるのであつた。花崗岩みかげいしの門柱の間の鐵の門が入口を示した。
昔の名残には、ヘロデの建てし街の面影を見るべき花崗岩みかげいしの柱十数本、一丈五尺にして往々わう/\一石より成るもの、また山背さんはいの窪地に劇場の墟址あとあり。麦圃のくろ、橄欖の影に、断柱だんちう残礎ざんそ散在す。
坂を登りつめて右手の街路には高雅な板塀が続いていて、大きな鋼鉄の門に「天野栄介」と門標が打ってある。傍の通用口を入ると花崗岩みかげいしを敷きつめた路が両側の桜の樹の下を通じている。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
坂を降りて左側の鳥居を這入はいる。花崗岩みかげいしを敷いてある道を根津神社の方へく。下駄のけいのように鳴るのが、い心持である。げた木像の据えてある随身門ずいじんもんから内を、古風な瑞籬たまがきで囲んである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
花崗岩みかげいしの板を贅沢に張りつめたゆるい傾斜を上りつめると、突きあたりに摺鉢すりばちのような池の岸に出た。そこに新聞縦覧所という札のかかった妙な家がある。一方には自動車道という大きな立札もある。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
湾は益々狭まって行く。そして狭まり尽くした所に広い花崗岩みかげいしの階段がある。階段の左右に人がいる。手に松火たいまつを捧げている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大きい花崗岩みかげいしの臺に載つた洗面盥には、見よ/\、溢れる許り盈々なみ/\と、毛程の皺さへ立てぬ秋の水が、玲瓏として銀水の如く盛つてあるではないか。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
いかにも……それは道理もっともな観察ですが、しかし万一兇器としても単に嵌込すげるだけの目的ならば、附近にシッカリした花崗岩みかげいしの敷石が沢山に在るのに
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
井戸端の花崗岩みかげいしに腰をおろすと、マンは、ふところから、煙草入れをとりだした。放心したような顔つきで、キザミを煙管につめ、マッチで火をつけた。一服、吸って
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
国道から曲り込んで、深良屋敷へ上って来る赤土道に、一尺置ぐらいに敷並べてある四角い花崗岩みかげいし平石ひらいしを、わななく手で指した。草川巡査はうなずいた。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何の気もなく星空を見い見い歩き出すトタンに深良屋敷に通ずる道路の中央に埋めて在る平たい花崗岩みかげいしの第一枚目に引っかかって、物の見事にモンドリを打った。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)