花主とくい)” の例文
かろう、毎日の米の代といっても差支えない、大切なお花主とくいを無くする上に、この間から相談のある、黒百合の話も徒為ふいになりやしないかね。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……立派な手腕うでを持つておありだし、伯父さんの代からの花主とくいはたんとお有りだらうし、こころを入れ換へてさ。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
っかあそれはねお前が腹を立つのはもっともだけれども、是には種々いろ/\な深い訳のあることで、私も此方様へ二月からお出入して、初めはやれこれ云って有難い花主とくいと思って
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
見てとる主人は花主とくいを逃さずたうとううりつけてしまひまして、新聞紙へ包んだ風琴を持つて其店を出ました時は、巾着きんちやくへ納めて懐へ入れた大事の/\金貨がチヤント人手に渡つてしまつて居りました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
月夜に背後うしろからついて来て、お花主とくいかどでやる処を、こぼれ聞きに聞いたらいと、愛嬌あいきょうの無いことをったそうな。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰もこのまよいばかりは免れぬわ。やっぱりそれこちとらがお花主とくいの方に深いのが一人出来て、雨の、雪の夜もじゃ。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それを言うなというに。無縁塚をお花主とくいだなぞと、とかく魔の物を知己ちかづきにするから悪いや、で、どうする。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「話せるな、酒と聞いては足腰が立たぬけれども、このままお輿みこしを据えては例のお花主とくいに相済まぬて。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
客はこの近辺ちかまわりの場所には余り似合わぬ学生風、何でも中洲に住んでるとより外くわしくは知らないが、久しい間の花主とくいで紋床はただ背後うしろの私立学校で一科目預っている人物と心得て、先生
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柳屋やなぎや土地とち老鋪しにせだけれども、手廣てびろあきなひをするのではなく、八九十けんもあらう百けんらずの部落ぶらくだけを花主とくいにして、今代こんだい喜藏きざうといふわか亭主ていしゆが、自分じぶんりに𢌞まはるばかりであるから
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
柳屋は土地で老鋪しにせだけれども、手広くあきないをするのではなく、八九十軒もあろう百軒足らずのこの部落だけを花主とくいにして、今代こんだい喜蔵きぞうという若い亭主が、自分で売りにまわるばかりであるから
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これ大弓場だいきうば爺樣ぢいさんなり。ひとへば顏相がんさうをくづし、一種いつしゆ特有とくいうこゑはつして、「えひゝゝ。」と愛想あいさうわらひをなす、其顏そのかほては泣出なきださぬ嬰兒こどもを——、「あいつあ不思議ふしぎだよ。」とお花主とくい可愛かはいがる。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お前のお花主とくいの、知事の嬢さんが、よく知っておいでだろうが、黒百合というのもやっぱりその百合の中の一ツで、花が黒いというけれども、私が聞いたのでは、真黒まっくろな花というものはないそうさ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「四十物町のお花主とくいというと、何、知事様のお邸だッけや。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)