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自他
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じた
見廻しながら私しの年は
慥か廿二歳ばかりにて
妻は御座りましたが私しを
嫌ひ
此間御出やりましたと
自他も分らぬ事を
能く
自他の
分を
明にして
二念あることなく、理にも非にもただ徳川家の主公あるを
知て他を見ず、いかなる非運に際して
辛苦を
嘗るもかつて
落胆することなく
何をか
試むる、と
怪んで、
身を
起し
汀に
立つて、
枯蘆の
茎越に、
濠の
面を
瞻めた
雪枝は、
浮脂の
上に、
明かに
自他の
優劣の
刻み
着けられたのを
悟得て、
思はず……
所が一二
年此方は
全く
自他の
差違に
無頓着になつて、
自分は
自分の
樣に
生れ
付いたもの、
先は
先の
樣な
運を
持つて
世の
中へ
出て
來たもの、
兩方共始から
別種類の
人間だから
斯るときに
於てはじめて芸術は人類に
必需で、
自他共に
恵沢を与えられる
仁術となる。一時の人気や
枝葉の美に
戸惑ってはいけない。いっそやるなら、ここまで踏み
入ることです。
かく
打明けるのが、この際
自他のためと思ったから、高坂は親しく
先ず語って、さて