腰巾着こしぎんちゃく)” の例文
世間に出て友だち仲間に交わりたいような夕方でも来ると、私は太郎と次郎の二人を引き連れて、いつでも腰巾着こしぎんちゃくづきで出かけた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いつも時平の腰巾着こしぎんちゃくを勤める末社まっしゃどもの顔ぶれを始め、殿上人てんじょうびと上達部かんだちめなお相当に扈従こしょうしていて、平中もまたその中に加わっていた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
中でも私の心の上に一番不愉快な影を落したのは、近来はどこかの若い御新造ごしんぞうが楢山夫人の腰巾着こしぎんちゃくになって、歩いていると云う風評でした。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしいつもいつも父や母の腰巾着こしぎんちゃくで行くというわけにも行かないので、わたしは年相応に金のかからない芝居を見てあるくことを考え出した。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
近ごろその軍団長のちょうという将軍が、東潞とうろ州から赴任してきた。さらに、その張将軍が腰巾着こしぎんちゃくとして連れて来た男もある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土地の商総務会の役員で、日本の大学を出たという王在廉ワンツァイレンと、ホン将軍と、H・デューラン氏、それに将軍の腰巾着こしぎんちゃくで小さな鉱山主の呉昌ウーチャンなどである。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
洒落しゃれにもならないが、いたって気はいい。これが顎十郎の腰巾着こしぎんちゃく乾児こぶんとも、弟子とも、家来ともいうべき関係。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「案外好人物ですよ。金持のお坊っちゃんですから、皆におだてられて威張るんです。谷君は佐伯君の腰巾着こしぎんちゃくです」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
思いきや! 鈴川源十郎の腰巾着こしぎんちゃく、つづみの与吉が、どういう料簡りょうけんか旅のしたくを調えて、今や自分の袖口に何か手紙ようのものを押し入れようとしている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その下から現われた顔は、意外、意外、ルージェール伯の腰巾着こしぎんちゃく、大使の邦人秘書官、浦瀬七郎うらせしちろうであった。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかしどっちにしろ、顔容かおかたち判然はっきり今も覚えている。一日あるひ、その母親の手から、むすめが、お前さんに、と云って、縮緬ちりめん寄切よせぎれこしらえた、迷子札まいごふだにつける腰巾着こしぎんちゃく一個ひとつくれたんです。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
管長の腰巾着こしぎんちゃくをつとめており、何代目かの管長候補の一人ぐらいに目されている坊主であったが、これが何かの因縁で、ある日、按吉と龍海さんを引きつれて、浅草のとある料理屋で酒をのんだ。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「あんな卑屈な奴に……課長の腰巾着こしぎんちゃく……奴隷どれい……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「ええ。腰巾着こしぎんちゃく
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
鳥熊の春木座は自分の小遣い銭で見物に出かけたのであるが、他の劇場も腰巾着こしぎんちゃくの機会さえあれば、わたしは誰にでも付いて行くことを怠らなかった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
近頃、このそろりという猫背の老人は、秀吉の腰巾着こしぎんちゃくといわれるほど、気に入りで、いつも彼のそばにいた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの愛宕下あたごしたの宿屋のほうで、太郎と次郎の二人ふたりだけをそばに置いたころは、まだそれでも自由がきいた。腰巾着こしぎんちゃくづきでもなんでも自分の行きたいところへ出かけられた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
金目のかかった宝なんざ、人が大切がって惜しむもので、歩るくにも坐るにも腰巾着こしぎんちゃくにつけていようが、じょうを下ろしておこうが、土の中へ埋めてあろうが、私等が手にゃあお茶の子さ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
父の腰巾着こしぎんちゃくで大劇場をのぞいたり、腰弁当で鳥熊の芝居に入り込む以外に、自分も一つ芝居を書いてみようという野心は、この時分から初めて芽をいたのであった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おまえさんが快活林かいかつりんの盛り場で、こッぴどい目にあわせた蒋門神しょうもんしんは、ちょう軍団長がこの土地へ赴任して来たときに連れて来た腰巾着こしぎんちゃくだッてことぐらいは知っているだろ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手ぬぐいを首に巻きつけて行くもののあとには、火の用心の腰巾着こしぎんちゃくをぶらさげたものが続く。あるいは鬱金うこん浅黄あさぎ襦袢じゅばん一枚になり、あるいはちょんまげに向こう鉢巻はちまきという姿である。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お供の、やっこ腰巾着こしぎんちゃく然としたくだんの革鞄の方が、物騒でならないのであった。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
では、陸謙りっけんと一しょのにやけ男は、富安ふあんという野幇間のだいこだろう。やつは、高家の御曹司の腰巾着こしぎんちゃくといわれている佞物ねいぶつ。だがその二人が遥々はるばる、なにしにこの滄州そうしゅうへやってきたのか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっきから何だか邪魔だと思ったら、あたしの帯にしっかりと獅噛しがみ付いて、これが本当の腰巾着こしぎんちゃくというんだね。(すしを指さして。)お前、これを食べないのかい。さあ、おたべよ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)