ねり)” の例文
ねりの二ツ小袖の上に、白絹に墨絵で蝶をかいた鎧直垂よろいひたたれは着ているけれども、甲冑かっちゅうはつけていない、薄青い絹で例の法体の頭から面をつつんでいる。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
次第に数が増すと、まざまざと、薄月うすづきの曇った空に、くちばしも翼も見えて、やがては、ねりものの上を飛交わす。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渡御とぎょ、おねりのほうは、これでどうやら事なくすんだが、これから先がたいへん。
代助は二三の唐物屋とうぶつやを冷かして、入用いりようの品を調えた。その中に、比較的高い香水があった。資生堂でねり歯磨を買おうとしたら、若いものが、欲しくないと云うのに自製のものを出して、しきりに勧めた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひとたびは神より更ににほひ高き朝をつつみしねり下襲したがさね
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
お高は、ねり沈香の匂を立てて、坐りつつ
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
神輿みこしのおねりだ。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
……縞の羽織、前垂掛だが、折目正しい口上で、土産に京人形の綺麗な島田と、木菟みみずくの茶羽のねりもの……大贔屓の鳥で望んだのですが、この時は少々くすぐったかった。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御覧なさいまし、明日、翌々日あさっての晩は、唯今のお珊の方が、千日前から道頓堀、新地をかけて宝市のねりに出て、下げ髪、緋のはかまという扮装なりで、八年ぶりで練りますから。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すこ高過たかすぎるくらゐに鼻筋はなすぢがツンとして、彫刻てうこくか、ねりものか、まゆ口許くちもと、はつきりした輪郭りんくわくひ、第一だいいち櫻色さくらいろの、あの、色艶いろつやが、——それが——いまの、あの電車でんしや婦人ふじん瓜二うりふたつとつてもい。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あまねく世に知られて、木彫、ねりもの、おもちゃにまで出来ている。
印半纏しるしばんてん股引ももひき、腹掛けの若いものが、さし心得て、露じとりの地に据えた床几に、お珊は真先まっさきに腰を掛けた。が、これは我儘わがままではない。ねりものは、揃って、宗右衛門町のここに休むのがならいであった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時、人声静まりて、橋がかりを摺足すりあしして、膏薬こうやくねりぞ出できたれる。その顔はさきにわれを引留めて、ここに伴いたるかのむすめたるに、ふと背後うしろを見れば、別なるうつくしき女、いつか来て坐りたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それで、白足袋でおねりでしょう。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)