綾取あやど)” の例文
後のふすまがさつと開いて、四十五六の武家が一人、たすきを十文字に綾取あやどり、六尺柄しやくえ皆朱かいしゆの手槍をピタリと付けて、ズイと平次の方に寄ります。
我輩はたすき綾取あやどって、向う鉢巻、相好そうごうがもう殺気を帯びている。『君は介添をつれて来ないか?』とベッケルが訊いた。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
靴のリボンは、真っ白なこまかな透き靴足袋の上にX形に綾取あやどられていた。それからモスリンの一種の胴着をつけていた。
いま鮮やけくえるものゝように、心からつむぎ出されて来て、肉体の感覚にまで結ばり綾取あやどられたのを感じると
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
六十六部に身を扮装やつして直江志津の一刀を錫杖に仕込み、田川より遠賀をんが川沿ひに道を綾取あやどり、福丸といふ処より四里ばかり、三坂峠を越えて青柳の宿しゆくに出でむとす。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
就中なかんずく公孫樹いちょうは黄なり、紅樹、青林、見渡す森は、みな錦葉もみじを含み、散残った柳の緑を、うすくしゃ綾取あやどった中に、層々たる城の天守が、遠山の雪のいただきいてそびえる。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
音羽小三郎の二人はたすきを十字に綾取あやどり、端折はしょりを高く取り、上締うわじめをしめ、小長いのを引抜き物をも言わずツカ/\と進んでまいり、今八橋周馬が敷台口しきだいぐちへ下りようとする前に立塞たちふさがりました。
あの銀色をした温味のある白毛のしとねから、すやすやと聞えやうかと耳を澄ます、五月雨さみだれには、森の青地を白く綾取あやどつて、雨が鞦韆ブランコのやうに揺れる、椽側えんがはに寝そべりながら、団扇うちはで蚊をはたき
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
わざわざ十字に綾取あやどりてと謂ったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
後ろのふすまがさっと開いて、四十五六の武家が一人、たすきを十文字に綾取あやどり、六尺柄皆朱ろくしゃくえかいしゅの手槍をピタリと付けて、ズイと平次の方に寄ります。
「ええ華族様は気の長いもんだ。」「素直に待ってちゃあらちが明かねえ。」「蹈込ふんごめ。」と土足のまま無体に推込おしこむ、座敷の入口、家令と家扶はたすき綾取あやどり、はかま股立ももだち掻取かいとりて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金糸でややこしい刺繍の紋章を綾取あやどった緋色の帷帳カーテンがユラユラと動いたと思うとサッと左右に開いた。その中の翡翠ひすい色の羽根布団を押除おしのけて一つの驚くべき幻影がムクと起上った。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
父爺おやじの総六が吩咐いいつけのまま、手織縞の筒袖に、その雪のような西洋前垂、せなへ十字に綾取あやどって、小さく結んだ菊模様の友染唐縮緬ゆうぜんとうちりめんの帯お太鼓に、腰へさばいた緑の下げ髪、すそ短こうふッくりと
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは可恐おそろしいいと手繰たぐつて、そら投掛なげかけ、べ、ちう綾取あやどる。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)