粉本ふんぽん)” の例文
いや、どういたしまして、あなた方の超凡なお動静に、朝夕親炙しんしゃいたしておれば、宗舟平凡画師も、大家の企て及ばぬ自然の粉本ふんぽん
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
芸者という typeチイプ を研究する粉本ふんぽんにはなっても、女という自然をあの中に見出すことは出来ないということになった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼は俳句に得たると同じ趣味を絵画に現わしたり、もとより古人の粉本ふんぽんし意匠を剽竊ひょうせつすることをなさざりき。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
とにかく五代目幸四郎の今の権太の粉本ふんぽんを作り、三代目菊五郎のこれを潤飾し、今の菊五郎のこれを相承したるは、何人も認めざることあたはざる所ならむ。
これはド・モウパツサンのオオラあたりが粉本ふんぽんかも知れないが、私の思ひ出す限りでは、英米の小説中、この種の怪物の出て来るのが、まづ二つばかりある。
近頃の幽霊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
で、高名な浮世絵師えがくところの美女も、みなその粉本ふんぽんはこの狭斜きょうしゃのちまたから得ている。美人としての小伝にとる材料も多くはこの階級から残されている。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこで始めて心付いたことは、古来東方の故郷の国において、人が深くも考えずに粉本ふんぽんを伝えていた、絵様えようというものにも基づく所があるということであった。
イエス・バラバの祭儀もかかるものであったと考えられる。かかる祭儀がイエスの最後の物語の粉本ふんぽんなのである。十字架の死そのものもかかる祭儀の中心であった。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
粉本ふんぽんには勿體ないが嫁のお倉を使つて、素木しらきのまゝ死んだ女房の供養に、菩提寺ぼだいじに納める積りでしたが、フトした手違ひから、雲龍齋又六に横取りされたので御座います
伴蔵の一条だけが円朝の創意であるらしく思われるが、これにも何か粉本ふんぽんがあるかも知れない。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(紅葉が『金色夜叉』を書く時、高利貸の知識や粉本ふんぽんを借りたのもまた花痩からであった。)
もとより、粉本ふんぽんがあっていたものと思われる。呉道子ごどうしあたりかも知れない。武蔵の遺作に、彩画はないなどとよく誰もいうていることだが、あったって何のふしぎでもない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(余の友人板倉氏の説に国貞の風俗画の佳良なるものは歌麿の画題と布局とをそのままに模写したるもの多しとぞ。)余は国貞の板画においては必ず粉本ふんぽん臭味くさみを感ずるに反し
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この幽怪録の話は、みん瞿佑かくゆうの『剪燈新話せんとうしんわ』の中の申陽洞しんようどうの記の粉本ふんぽんになっている。
怪譚小説の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この国のやき物は東洋のを粉本ふんぽんにしつといえど、染めいだしたる草花などの色は、わがくになどのものに似もやらず。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼は俳句に得たると同じ趣味を絵画に現したり、固より古人の粉本ふんぽんを摸し意匠を剽窃ひょうせつすることを為さざりき。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
中でも黙阿弥は、「江戸桜清水清玄えどざくらきよみづせいげん」で紀国屋きのくにや文左衛門を書くのに、この大叔父を粉本ふんぽんにした。
孤独地獄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
父のガイヤーは絵画を稽古させたがデッサンと粉本ふんぽんとに囚えられるのは我慢が出来なかったらしく、音楽においても同じような課程の修業はワグナーの得手えてではなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ああした粉本ふんぽんは、あの頃ばかりではなく、支那には澤山あつたのかも知れない。
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
(この画は先年淡島家の売立てに出たので今は誰の所有に帰しているか解らぬ。)椿年歿して後は高久隆古たかくりゅうこに就き、隆古が死んでからは専ら倭絵やまとえ粉本ふんぽんについて自得し、かたわ容斎ようさいおしえを受けた。
不動明王の眷族けんぞく三十六の童子を、古例になずまずに、おのおのその性格によって表現を異にしようとこう考えているのだが、その粉本ふんぽんに苦しんでいる……ところが今、計らず君に出逢って見ると
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この国のやき物は東洋のを粉本ふんぽんにしつといへど、染いだしたる草花などの色は、我くになどのものに似もやらず。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
粉本ふんぽんには勿体もったいないが、嫁のお倉を使って、素木しらきのまま死んだ女房の供養に、菩提寺に納めるつもりでしたが、フトした手違いから、雲龍斎又六に横取りされたのでございます
この城門の粉本ふんぽんは錦絵にあつたかも知らぬが、その城楼の窓の処を横に三分して「オ、シ、ロ」の三字が一区劃に一字づつ書いてあるのは新奇の意匠に違ひない。実に奇想だ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
もつとも、ほんたうらしく見せかけるのには、いろんな条件が必要だよ。僕自身、僕の小説の主人公になる事もある。或は、僕の友だちの夫婦関係を粉本ふんぽんに、ちよいと借用する事もある。
創作 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人は技の拙なるにわずらいする、材の取り難きに苦心する、もしそれ画題の陳腐をいとうての筆端の新鮮なるをねがうに至っては、万人の画家が、ひとしく欲しながら、ついに粉本ふんぽんを出でることができず
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれどもそこには必然に前人の蹤を残してゐるであらう。伝説学者は海彼岸かいひがんの伝説の中に多数の日本の伝説のプロトタイプを発見してゐる。芸術も亦穿鑿せんさくして見れば、やはり粉本ふんぽんに乏しくない。
一、靄崖あいがい花卉かき粉本ふんぽん一巻(模写)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)