竪琴たてごと)” の例文
「我らは無窮を追ふ無益の探究を捨てなむ。しかうして我らの身を現在の歓楽にゆだねむ。竪琴たてごとのこころよき音にふるふ長き黒髪に触れつつ」
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼にむかって手桶のよごれ水をぶっかけている女や竪琴たてごとを小脇にかかえながら片手でゴーリキイの足元に繩わなをしかけようとしている男
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
カテリイヌのあどけなさはおみちの平凡なあどけなさとは違った特色の魅力となって人にせまる。声は竪琴たてごとにでも合いそうにすき透っていた。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかしわたしの光は、花婿のかがやいていたように、輝いていました。——女性よ、詩人が生命の神秘をうたうときには、その竪琴たてごとにキスをなさい!
ある高貴な魚族は、美しいしまのある鮮緑のかげで、竪琴たてごとをかき鳴らしながら、宇宙の音楽的調和をたたえておった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
竪琴たてごとひきの老人が召使部屋から呼ばれてきた。彼は今までそこで一晩じゅうかきならしていて、あきらかに主人の自家製の酒をんでいたらしかった。
あるいは、ゲーテの詩的な人物、たとえばウィルヘルム・マイステル中の竪琴たてごと手ミニョンなどに、その簡明にして混濁せる個性を与えようとつとめた。
あねひめは、この景色けしきをあかずながめていられました。そして、ってきた竪琴たてごとだんじてひとこころなぐさめていました。
黒い塔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
微醺びくんが頬へ現れた頃、歌い手三人ばかりが残照の花園に現れて、一人は竪琴たてごとを奏で、一人がそれに合せて節面白く唄って酒興を添えてくれるのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そこで思い出させるのはツルガ博士が沼のほとりで、竪琴たてごとをぽろんぽろんとしずかにひいているのをじっと聞いていた恐竜のことだ。奴等は音楽が好きらしい。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこには、アーチ形の古めかしい墓穴ぼけつが出てきたり、竪琴たてごといた天使が現われたり、物を言う花だの、はるかにただよってくるがくだの、たいした道具だてだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
また自刻の印章——ボート形の内に竪琴たてごとと星を刻したの——が押してある。自分の家の門や庭の芭蕉ばしょうなどの精密な写生があるかと思うと、裏田んぼの印象風景などもある。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
サンドラ・ベロニが月下に竪琴たてごとを弾いて、以太利亜風イタリアふうの歌を森の中でうたってるところは
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ずぼらで、あらいくせに、一面には、竪琴たてごといとが微風に鳴るような神経がかれにはある。
ふたりの恋人のささやきから、魂より発して竪琴たてごとのように伴奏する旋律を取り去る時、あとに残るものはもはや一つの影にすぎない。「なんだ、そんなことか!」と人は言うであろう。
僕はこの文章を書いてゐるうちに古代の日本に渡つて来たアツシリアの竪琴たてごとを思ひ出した。大いなる印度は僕等の東洋を西洋と握手させるかも知れない。しかしそれは未来のことである。
愛情がその彩色の輝きを増し、帽子の羽飾りは竪琴たてごとのように震えている。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
彼女は竪琴たてごとの消えるような優しい声で、ゆるやかにささやきました。
聞くと、まるで竪琴たてごとを乱暴に鳴らしているように響きますからね
竪琴たてごとみたいに弾きながら。
一人ひとりは両手に大きな竪琴たてごと
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
イスラエルの人民が泣きぬれてバビロンの河辺かわべに立ったとき、あの月は竪琴たてごとのかかっているヤナギの木のあいだから、悲しげにそれをのぞいたこともあるのです。
城や荘園邸しょうえんていの大広間には、竪琴たてごとが鳴り、クリスマスの歌声がひびき、広い食卓にはもてなしのご馳走が山のように盛りあげられ、その重さに食卓はうなり声をたてるほどだった。
揺籃ゆりかご、ラッパ、太鼓、木馬などが、光線のほとばしり出てる竪琴たてごとを取巻いてる絵だった。
と、そのうちの一本がぐにゃぐにゃと下りてきて、垂直に立つ他の二本の触角を、まるで竪琴たてごといとをはじきでもするかのように、ぽろんぽろんとはじいた。音が出たにちがいない。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひめは、ごろ自分じぶんこころなぐさめる、ちいさな竪琴たてごとたずさえてゆくことをわすれませんでした。これだけは、つねにひめなかのよいともだちであって、月夜つきよばんに、はなしたひめなぐさめたのであります。
黒い塔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
六絃琴竪琴たてごとに合わせて頬に涙を伝わらせながら、緩やかなテンポで、この国の哀歌らしいものを唄い、その前にはさながらこの奏楽に合わせてでもいるかのように、二、三人ばかりの侍女が
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
これについて思い出すのは古いアッシリアの竪琴たてごとと正倉院にある箜篌くごとの類似である。クゴはシナ音クンフーでハープと縁がある。アラビアの竪琴ジュンク。マライのゲンゴンと称する竹製の竪琴。
日本楽器の名称 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その沼畔ぬまほとりに、ツルガ博士親子が身体をぴったりよせあっている。そして小さい竪琴たてごとを、ぽろんぽろんとしずかに弾いているのだった。それはいいが、二人の前には、恐竜のおそろしい首があった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
竪琴たてごとは頭のそばに置いてあり、犬は足もとに横たわっていました。——