突伏つッぷ)” の例文
女房は真うつむけに突伏つッぷした、と思うと、ついと立って、茶の間へげた。着崩れがしたと見え、つまよじれて足くびが白く出た。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と合掌しますので、小主水は花里の様子に目もはなさず見ていましたが、我知らずほろり/\と涙をこぼしているに、花里もこれに誘われましたか、また突伏つッぷして仕舞いました。
そうでなくたてひざの上に腕組をして突伏つッぷして顔を腕の間にうずめて居た。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
木の葉を被り、草に突伏つッぷしても、すくまりましても、きじ山鳥やまどりより、心のひけめで、見つけられそうに思われて、気が気ではありません。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうか、と云って、よる夜中よなか、外へ遁出にげだすことは思いも寄らず、で、がたがた震える、突伏つッぷす、一人で寝てしまったのがあります、これが一番可いのです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はっと火のような呼吸いきを吐く、トタンに真俯向まうつむけに突伏つッぷす時、長々と舌を吐いて、犬のように畳をめた。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
座敷で衣物きものが脱げないなら、内で脱げ、引剥ひっぱぐと、な、帯も何も取られた上、台所で突伏つッぷせられて、引窓をわざと開けた、寒いお月様のさす影で、恥かしいなあ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(姉めも、病身じゃによって、)と蜘蛛くもの巣だらけのすす行燈あんどんにしょんぼりして、突伏つッぷして居睡いねむ小児こどもの蚊を追いながら、打語る。……と御坊は縁起で云うのですが。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
病人の寝間にむらむらしておりますようで、遠くにいてみんなが耳をふさいで、突伏つッぷしてしまいますわ。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人はヤッシと艪柄ろづかを取って、丸裸の小腰を据え、すほどに突伏つッぷすよう、引くほどに仰反のけぞるよう、ただそこばかり海が動いて、へさきを揺り上げ、揺り下すを面白そうに。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
支えたかいなが溶けるように、島田髷しまだせて、がっくりと落ちて欄干てすり突伏つッぷしたが、たちまちり返るように、つッと立つや、蹌踉々々よろよろとして障子に当って、乱れた袖を雪なすひじ
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三声ばかり呼ぶと、細く目を開いて小宮山の顔を見るが否や、さもさも物に恐れた様子で、飛着くように、小宮山の帯にすがり、身を引緊ひきしめるようにして、坐った膝に突伏つッぷしまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
車夫の提灯ちょうちんが露地口を、薄黄色にのぞくに引かれて、葛木はつかつかと出て、飜然ひらりと乗ると、かじを上げる、背に重量おもしが掛って、前へ突伏つッぷすがごとく、胸に抱いた人形の顔をじった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葛木がれて気色ともに激しくなるほど、はあはあと呼吸を内に引いて、大息であえいだが、けものの背の、波打つていに、くなくなとなると、とんと橋の上へ、真俯向まうつむけに突伏つッぷしてしまう。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
追掛おっかけるのか、逃廻るのか、どたばた跳飛ぶ内、ドンドンドンドンと天井を下から上へ打抜くと、がらがらと棟木むなぎが外れる、戸障子が鳴響く、地震だ、と突伏つッぷしたが、それなりしんとして、しずかになって
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)