破鐘われがね)” の例文
この時、またも闇の中に、ポツリと一点燐光のような青褪あおざめた円光が浮かんだが、図太い男の破鐘われがね声がすぐとそこから聞こえて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
奈良原少年一流の急進的な激語が破鐘われがねのように大きいのでその家を取巻く密偵の耳に筒抜けに聞えたに違いないという事になった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
このときであつた。襖を距てた隣室から、破鐘われがねのやうな声できこえよがしの独りごとを叫びはじめた奴がある。如水であつた。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
入交いりまじりに波に浮んでいると、かっとただ金銀銅鉄、真白まっしろに溶けたおおぞらの、どこに亀裂ひびが入ったか、破鐘われがねのようなる声して
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
議論になると、破鐘われがねのような声を出して相手を圧倒する。負けぎらいで、先輩だろうと何だろうと遠慮はしない。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
破鐘われがねのような大きな声と悲しい沈んだ声とで互いに夏期学校の講壇に立って、一方を旧約のイザヤに擬するものがあれば、一方をエレミヤに擬するものがある
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すると、このミンミン島の酋長ミンチも、すっくと立ちあがり、これは破鐘われがねのような声で
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一同いちどう飛立とびたつて、四方しほう見廻みまわしたが、なにえない。さてこゝろまよひであつたらうかと、たがひかほ見合みあはとき、またも一發いつぱつドガン! ふと、大空おほぞらあほいだ武村兵曹たけむらへいそうは、破鐘われがねのやうにさけんだ。
イエス様ともあろうお方が、かねて覚悟していた最後の時が迫った時、胸は破鐘われがねを打つように驚き騒ぎ、そのあとで喪神したようになって悲しむなどとはあまりに女々しいではないか。
田地が銅毒に侵されてからの一家の零落、肉身の離散を老人や婦人が田舎の飾なき言葉で語る。翁は例の大蛇おろちの如き眼球をいからして、『畜生野郎。泥棒野郎』と、破鐘われがねの如くに絶叫した。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「そんなことを聞いてどうするのだ」とらいの神は破鐘われがねのような声で言いました。
コーカサスの禿鷹 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
薄暗い庫裏の土間へはいると、突然、釘抜藤吉は破鐘われがねのように我鳴り立てた。
二郎次が片隅かたすみにブルブルと顫えていますと、鬼童丸は破鐘われがねのような声で
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
破鐘われがねのような大きな声で、続けざまに呼び立てる声がします。
と云う破鐘われがねのような声が満廷にひゞき渡った。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そして破鐘われがねの様な声で、怒つた風もなく
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
破鐘われがねのような声でいう者がある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、破鐘われがねのような声を出した。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その破鐘われがねのような声に吹きとばされたか、がりがり亡者の紳士は腰掛の間に尻餅しりもちをついた。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「よしよし。」と破鐘われがねのような声を出してうなずきました。それからは、二郎次もみんなと一緒にお酒を飲んだり、物を食べたりしました。それは生れて初めて食べるような御馳走ごちそうを、腹一ぱい食べました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
よい、よい、遠くなり、近くなり、あの破鐘われがねを持扱う雑作に及ばぬ。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、破鐘われがねのような声でどなりつけ、にぎり拳を高くふりあげた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
といっているところへ、突然二人の頭の上で、破鐘われがねのような声がとどろきました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
破鐘われがねのごときその大音、どっと響いた。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帆村と一彦の頭の上からふってきたのは、それは破鐘われがねのような大きな声でした。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
太刀川の耳もとで、破鐘われがねのような大声がした。それとともに、ぷーんとはげしい酒くさい息が、彼の鼻をうった。すぐ隣にいた大男の白人が、どなりだしたのであった。ひどく酔っぱらっている。
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、とつぜん破鐘われがねのような笑い声が、頭の上から響いて来ました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、破鐘われがねのように笑う者があった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)